榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

江戸幕府は悪、明治維新は善という歴史観に異議あり・・・【情熱的読書人間のないしょ話(854)】

【amazon 『明治維新という幻想』 カスタマーレビュー 2017年8月20日】 情熱的読書人間のないしょ話(854)

「珍しいカブトムシ&クワガタ展」で、外国産のニジイロクワガタ、メリーメンガタクワガタ、ラコダールツヤクワガタ、ローゼンベルクオウゴンオニクワガタ、ルデキンスツヤクワガタ、タランドゥスオオツヤクワガタ、パラワンオオヒラタクワガタ、ギラファノコギリクワガタ、マンディブラリスフタマタクワガタ、リノケロスフタマタクワガタを間近で観察することができました。

閑話休題、『明治維新という幻想――暴虐の限りを尽くした新政府軍の実像』(森田健司著、洋泉社・歴史新書y)は、封建制に庶民が苦しめられた江戸時代、その軛から解放したのが明治維新という歴史観に真っ向から異議を唱えています。

「重い年貢と、固定された身分による差別。悪しき封建制度によって、生まれながらの権利を奪われていた庶民たちが、ついに解放される時が来た。それこそが『明治維新』である。日本は、新たに確立された先進的な明治政府の導きによって、西洋列強と同じ、『近代』という輝かしい時代に突入することになったのだ――。・・・『旧き悪しき江戸時代を克服して、希望あふれる明治の世になった』という見方である。しかし、このような歴史観は、正しいものと見てよいのだろうか」。

「本書は、『明治政府』の真の姿を、幕末や戊辰戦争、それに対する庶民の反応、そして当時を代表する人物たちの発言や行動を用いて、浮き彫りにしようとするものである。その際に採用した方法は、多分に思想史学的である」。

旧幕府側では、勝海舟、山岡鉄舟、高橋泥舟、榎本武揚、徳川慶喜のプラス面が、明治政府側では、西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允、伊藤博文のマイナス面にスポットが当てられています。

例えば、西郷はこのように断罪されています。「徳川慶喜が『大政奉還』を申し出た慶應3年の秋頃から、江戸市中では、長らく高い水準で維持されていた治安が急激に悪化した。具体的に言うと、集団強盗が頻発したのである。・・・この盗賊たちのバックにいたのは薩摩藩だった。慶喜の『大政奉還』によって、倒幕戦争の口実を失った薩摩の志士たちは、江戸をはじめとする関東の治安を悪化させることによって、民衆のなかに不安を生じさせようとしていたのである。こうすれば、危機感を持った幕府が自分たちを制圧するため、武力を行使するのではないかと目論んでのことだった。この計画のために江戸に派遣されたのは、相楽総三や益満休之助、伊牟田尚平らで、命じたのは西郷吉之助、つまり、後の西郷隆盛である。西郷は、様々な政治的理想を語ったが、その実現のためならば、無関係の人々を傷つけたり、彼らの私財を奪ったりしても問題なしと考えていた。少なくとも、この時点の彼は至極単純なテロリストである。この西郷の計画は、庄内藩士による薩摩藩邸焼き討ちという結果につながる。それによって薩摩側に戦の理由が生まれ、目論見は見事に成功した。しかし、数々の犯罪行為によって、江戸の民衆のなかに、薩摩に対する否定的な感情が沈潜したのも確かである」。

著者の主張は世の少数意見かもしれないが、歴史を学ぶ上で、こういう考え方に触れることは意味があると、私は考えています。