榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

吉村昭の素顔に触れることができる本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1015)】

【amazon 『人間 吉村昭』 カスタマーレビュー 2018年2月2日】 情熱的読書人間のないしょ話(1015)

今シーズン初めて、ツグミを見ました。

閑話休題、『人間 吉村昭』(柏原成光著、風濤社)によって、私の尊敬する作家・吉村昭の素顔に触れることができました。

「妻・津村節子について」では、私の好きな作家・津村節子が登場します。「吉村・津村の二人がおしどり夫婦であることは、文壇では有名であった。・・・吉村は、『蟹の横ばい』の中で、<私にとって彼女は、女房というより恋人に近い。結婚後十三年もたつのだが、彼女からはその年月が感じられない。彼女は、いつまでたっても娘時代の他愛ない幼さを持っている>と、堂々と述べている。また『ひとり旅』に収められたインタビュー『私と長崎』では、<女性はぼくは女房がいちばん好きですけどね>と臆面もなく言い切っている。吉村が亡くなってから、津村が書いたいくつもの文章を見ても、二人の関係の濃密さは明らかである」。

吉村が津村に宛てた手紙の中に、このような一節があります。<愛する女を妻としている男の幸福を考えたことがあるか? それは生命に代えてもよいような幸せなのだ>。<貴方は人間的に素晴しい。女としても、僕には分に過ぎたひとです。貴方と共に過すことができたことは、僕の最大の幸福です。生きてきた甲斐があった、生れてきた甲斐があったと思います。・・・僕は貴方を尊敬し、惚れています>。

吉村の死生観にも言及されています。「(肺結核の胸郭成形手術という大手術の)自覚から彼は<必然的に、生きている時間を大切にしたいという考えがきざした。一刻一刻を漫然とすごさず、意義あるものにしたい。仕事をすることはもとより、遊ぶもよし、酒を飲むもよし、それぞれ充実した時間をすごしたい、と・・・。この声は、私の生き方そのものを支配している>」。

「彼は生前、津村に向かってよく<死は全くの無になることだよ>と言っていたという」。

本書を読んで、吉村と津村をますます好きになってしまいました。