チョウの雌は貞淑で生涯に1回しか交尾しないという説は間違っていた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1071)】
横浜のソメイヨシノは、どこも満開です。根岸森林公園の、日本初の洋式競馬場の旧一等馬見所、山下公園、汽車道、大岡川、三ツ池公園を巡りました。山下公園に繋留されている氷川丸の鎖にユリカモメがぎっしりと止まっています。福山雅治の「桜坂」で知られる東京・大田の田園調布の桜坂のソメイヨシノも満開です。目黒の目黒川では夜桜を楽しむことができました。因みに、本日の歩数は25,181でした。
閑話休題、『チョウの生態「学」始末』(渡辺守著、巌佐庸コーディネーター、共立出版)は、チョウ好きには堪らない一冊です。利己的遺伝子を基礎理論としたチョウの行動生態学の最新成果が紹介されているからです。
チョウの雌は生涯に1回しか交尾せず、雌の産卵行動は種の保存のために行われるという通説が見事に覆されています。「(雄から)注入された精子が交尾後1日もあれば受精嚢へ移動してしまうことと、精包物質が数日かけて(雌の体内に)吸収され、精包が交尾嚢内で小さくなった時に再交尾が受け入れられるという事実は、2番目以降に交尾した雄は、自らの力でその前に交尾していた雄の精子による授精を妨げることができないことを示していよう」。
そこで、自分の子孫を残そうと雄は戦略を練ったのです。「雌が多回交尾しやすい種の場合、雄の精子生産能力が高まるように進化してきた可能性がある。雌が生涯に複数回交尾する傾向の強い種であればあるほど、雄は比較的大きな精巣をもち、精子生産量を増加させるように進化したと解釈するのである。また、このような種の雄ほど1回の交尾で注入する物質量は大きく、精包内にはたくさんの精子が含まれている」。
ところがどっこい、雌のほうでも、しっかり戦略を練っていたのです。「雌は、求愛にきた雄たちの中から、お眼鏡にかなった雄を選んで交尾を受け入れていたばかりか、交尾後、お眼鏡にかなった雄の精子だけを受精に使おうとしていたのである。たとえば、ナミアゲハの場合、2回交尾した雌において2回目の交尾後に産下した卵を調べたところ、交尾の順序にかかわりなく、小さな精包を注入した雄の精子は雌によって選択的に排除されていた。すなわち、雌は雄に対して、結果的に大きな精包を生産して注入するように仕向けていたことになる」。
雌は、雄から精子だけでなく、多量のタンパク質を含んだ物質(精包)を受け取ります。交尾により十分な量を受け取ると、暫くは他の雄を受け入れず、その間に精包を破って栄養を得て、それをもとに卵生産を増やしているのです。
雌が多回交尾する種は、シロチョウ科やアゲハチョウ科ばかりでなく、セセリチョウ科やマダラチョウ科でも知られるようになってきました。一方、単婚的な種も存在しています。雌が生涯に1回しか交尾しない種はタテハチョウ科やジョノメチョウ科、シジミチョウ科で多く知られるようになってきました。なお、アゲハチョウ科であっても、キアゲハやアオスジアゲハは単婚的です。
交尾を巡って、雄と雌の間で、このように激しい駆け引きが行われていることを知った今となっては、これまでのようにのんびりとチョウたちを眺めるわけにはいかなくなりそうです。