貧乏、引き籠もり、高校中退の意志薄弱青年が、どうして社長になれたのか・・・【続・リーダーのための読書論(40)】
新タイプの私小説
『こんな僕でも社長になれた(新装版)』(家入一真著、イースト・プレス)には、驚かされた。ビジネス書というか、苦闘・成功物語というか、そういう内容を想定していたのに、ところがどっこい、見事な文学作品、それも暗さに塗れていない新しいタイプの私小説の趣を漂わせていたである。
「笑ってください。家入(いえいり)一真。挫折と逃亡、汗と涙。ちょっぴり奮起、ちょっぴりロマンスの全記録。それでは、はじまり、はじまり~」。
逃げっぱなし人生
本書の大部分が、何とも情けない自分の来し方を描くことに割かれている。「学校に行けない、人の顔を直視できない、外に出られない。そんな悩みを抱えていたあの頃の僕に、今の僕から一つだけ、言葉を掛けてやれるとすれば、僕はこう言いたい。『逃げることは、悪いことじゃない』。改めて振り返ってみると、小学生だったあの頃、どこかいかがわしい男女を前に逃げ出したあの日以来、僕の人生、逃げっぱなしだった。体育祭から逃げ、高校からも逃げ、大学受験を逃げ、仕事先から逃げ・・・。どんな困難にも真っ向から立ち向かうことがよしとされる世の中で、とにかくひたすら、逃げ続けることに、全力を注いできた。あの頃の僕は、そんな自分のことをただただ、情けなく思っていたし、何度となく失望した。でも、今、僕は思う。逃げることは、決して悪いことじゃない。前に進めなくて立ち止まるくらいなら、全力で後ろ向きに走ればいい。尻尾を巻いて逃げてしまえばいいのだ。・・・世の中は広い。地球は、途方もなく大きい。どんな人にだって、どこかにきっと、何も恐れることなく、ハッピーに暮らせる場所があるはずだ。前に進まなくたって、逃げたって、生きてさえいれば、きっといつか、そんな場所にたどり着く。逃げることは、決して悪いことじゃない」。
著者が味わってきた、貧乏、引き籠もり、高校中退、父の自己破産、両親の離婚、長続きしない仕事、女性と縁のない生活などなど、そして、その後の、インターネットの友達募集サイトで知り合った17歳の高校2年生との交際・結婚、IT企業の起業、大発展を知る読者に、著者の言葉が説得力を持って迫ってくる。
成功への道
「今となって思えば、このときをきっかけに、僕はウェブの面白さに強く惹かれるようになっていったのだった」。
「その時点ですでに200人を越えるユーザーを抱えていて、とてもじゃないけど、やめます、なんて言える状況じゃなかった。言いたい放題言われていても、絶対にこのまま終わりたくない、見返してやりたい、という強い気持ちが自分の中でどんどん高まってくる。ある意味でそれは、人生で初めての大勝負に挑む、僕自身の意地でもあったのだ」。
本書は、これまで冴えない人生を送ってきた者にも、その気になれば、明るい未来が開けることを、身を以て教えてくれる貴重な本である。
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