生命史上の重要な節目となる100の化石が全員集合!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1246)】
雨の上州路は実りの秋を迎えています。桃太郎の滝が流れ落ちる湖面の青さは、神秘的で思わず吸い込まれそうです。四万(しま)の甌穴群は、気の遠くなるような年月をかけて自然が作り出した彫刻です。因みに、本日の歩数は11,859でした。
閑話休題、『世界を変えた100の化石』(ポール・D・テイラー、アーロン・オデア著、真鍋真監修、的場知之訳、エクスナレッジ)には、生命誕生から、絶滅寸前のシカツノサンゴ、アクロポラ・ケルヴィコルニスまで、生命史の重要な節目となる100の化石が掲載されています。
化石は大きく2つに分けることができます。1つは、生物の外殻、骨、歯、葉などが保存された体化石であり、もう1つは、生物の活動の痕跡、つまり足跡、巣穴、排泄物などの生痕化石(生活化石、痕跡化石)です。
とりわけ興味深いのは、「大酸化事変が生んだ生命体――ストロマトライト」、「カンブリア爆発で生まれた『奇妙なエビ』――アノマロカリス」、「巨大かつ獰猛な古代サソリ――プテリゴトゥス」、「視覚の始まり――三葉虫」、「魚から四肢動物へ――エウステノプテロン」、「現生の両生類すべての先祖、分椎目――エリオプス」、「爬虫類から哺乳類への道――キノドン類」、「鳥類の誕生――始祖鳥」、「巨大化した昆虫たち――トンボ」、「高度な子育ての痕跡――トロオドンの巣」、「伝説の王――ティラノサウルス・レックス」、「空に進出した哺乳類――オニコニクテリス」、「琥珀の中で止まった時間――ゴキブリ」、「花を咲かせる植物の誕生――チャネヤ」、「断続平衡論を支持する外肛動物――メトララブドトス」、「類人猿に近いか、ヒトに近いか――プロコンスル」です。
掲載されている化石の写真だけでなく、説明文も素晴らしいのが本書の特色です。例えば、「地上を征服した植物――クックソニア」の一節は、こんなふうです。「こうしてクックソニアを筆頭に、小さな植物が4000万年にわたって地上を支配、これぞ我が王国と高らかに宣言した。そして土壌を形成して酸素を放出しつづけたことが、高等植物やひいては陸生動物の登場の下地をつくったのである」。
「霊長類の起源――エジプトピテクス」では、「エジプトピテクスの重要性は、単に古い霊長類というだけでなく、狭鼻猿類と類人猿の共通祖先にあたるグループに属していたことにある」と指摘されています。
「類人猿と現代人の間のミッシングリンク――アウストラロピテクス」では、興味深いエピソードが紹介されています。「(レイモンド・ダートが1924年に南アフリカで発見したアウストラロピテクス・アフリカヌスに対し)当初、多くの古生物学者の反応は懐疑的で、ヒトの親戚ではなく類人猿だという声も多かった。ダートはそれに対し、『いずれ人類のゆりかごはアフリカだと判明するだろうというダーウィンの予想は正しかった、この化石こそがその証拠だ』とアウストラロピテクスの重要性を擁護した。今ではこの主張のほとんどは正しかったことが明らかになっている」。
「350万年前の灰のなかの3人――ラエトリの足跡」は、人類の進化を考える上で非常に重要なことを雄弁に物語っています。「この(足跡の)発見までは、ヒトの進化は二足歩行が先か、それとも脳の大型化が先かと議論されていたが、アウストラロピテクスの脳は小さく、現代人の半分にも満たない。しかし実際、こうして二足歩行していた者がいる。つまり、まずは二足歩行へと進化し、その後かなり経ってから脳が大きくなったのである」。
「ヒトと共存したマンモス――ステップマンモス」には、こういう一節があります。「マンモスと現生のゾウは、いずれもゾウ科に属し、近い親戚にあたる。もっと言えば、マンモスと現代のアジアゾウは同じ祖先から進化し、その分岐はアフリカゾウとアジアゾウの分岐より新しい可能性が高い。こうした種の識別や相互関係の理解のためには、DNAデータが大いに役立っており、つい最近まで1種のみとされていたアフリカゾウも、サバンナゾウとマルミミゾウの2種が存在することもDNA解析により示された」。
「わたしたちにいちばん近い祖先?――ホモ・ハイデルベルゲンシス」は、こう説明されています。「ホモ・ハイデルベルゲンシスは、ヒトの深化を知る上できわめて重要な存在であり、多くの研究者は現代人(ホモ・サピエンス)とネアンデルタール人の共通祖先だと考えている」。
知的好奇心を満足させてくれる一冊です。