オバマ大統領の若きスピーチライターが、オバマから学んだこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1292)】
20羽ほどのエナガの群れを見つけたが、1羽の不鮮明な写真しか撮れませんでした。あちこちでヒヨドリが鳴いているが、なかなか満足のいく写真が撮れません。ハクセキレイ、セグロセキレイ、水辺のキジバト、コガモの雌、叢のカルガモ、アオサギをカメラに収めました。
閑話休題、『24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!』(デビッド・リット著、山田美明訳、光文社)の魅力は、3つにまとめることができます。
第1は、私の大好きなバラク・オバマを間近で観察できることです。第2は、オバマ大統領を巡る政策スタッフたちの日々の動きを覗き見できることです。第3は、スピーチライターとはどういう仕事なのか、どういう能力を要求されるのかを学べることです。第3については、私の個人的な理由も絡んでいます。まだ若かった頃、三共(現・第一三共)の営業部門から秘書部に移り、当時の社長の専任スピーチライターを務めた経験があるからです。3年3カ月後には、会社に無理を言って、営業部門に戻してもらいましたが。
「この24年間の人生で自慢できることと言えば、『異様なややこしいいたずら』というジャンルに含まれるものばかりだった。そんな僕が、(2011年)4月1日からホワイトハウスで働くことを認められたのだ」。
「彼女(僕の上司)は1991年、シカゴ市役所の仕事に応募してきたミシェル・ロビンソンという若い女性の面接をした。それから間もなく、ミシェルの婚約者だという若い弁護士を紹介された。それがバラク・オバマである。オバマ夫婦とは、それ以来家族同然のつき合いをしていた。オバマ夫婦の歩んできた道がいかに奇跡的なものだったかを、バレリー(・ジャレット)ほど知っている人物はいないだろう」。
「渉外政府間問題局の市民参加室(OPE)で働くバレリーの部下は、ほとんどが『連絡員』だ。つまり、それぞれがオバマ連合の一翼を担うプロの外交家である。熱心な若いスタッフがそれぞれ、若者、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック、ユダヤ人、州議会議員、環境保護主義者なとのグループとの交渉や応対を担当している」。
「ファブズ(=ジョン・ファブロー)ら大統領のスピーチライターたちが、スピーチの一節のアイデアをとりとめもなくしゃべっている姿を目にすることがある。すると数日後に、それとまったく同じ一節が、ニューヨーク・タイムズ紙の一面に掲載されていたりする。信じられない。まるで舞踏会に来たシンデレラのような心境だ」。
「新たなメールが届くたびに、それがストレスの引き金になった。スマートフォンのランプが点滅すれば、バレリーに原稿の手直しを求められるか。新たなテーマのスピーチを早急に書き上げなければならない」。
「そのとき、ブラックベリーが振動した。バレリーからだ。明日のスピーチの内容を大幅に変更し、大統領の勇気、判断、人格について、あるいは、20年前に会ったときからそれらの資質を備えていた点について話をしたいという。・・・今では、僕がいるべき場所にいるかという疑問よりも、僕がここにいるという事実のほうが重要な気がした。ささやかながら、アメリカは僕を頼りにしてくれている。僕は、曲がりなりにもチームの一員なのだ」。
「僕の人生を変える瞬間となるかもしれない最初のチャンスは、2011年11月に訪れた。ファブズから、大統領が公開する感謝祭のビデオメッセージの原稿を依頼されたのだ」。
「質問事項に、『オバマ大統領のスピーチの原稿を書くときにもっとも重要なことは何か?』という項目があったら、『長い文章を書く』と答えていただろう。大半の話し手は、長い文章を扱いきれない。文章を短く切り詰めないと、途方に暮れてしまう。だがオバマ大統領は、まるでスポーツカーがスピードを落とさずカーブするように、長々と続く文章をコントロールできた。句読点に頼るのではなく、生まれ持った雄弁家としての才能により、語や句の中にリズムを見つけ、ある部分は口調を強め、ある部分は間を置き、声に抑揚をつけて聞き手を惹き込むため、最後のクライマックスになると聞き手は、自分が大きくなったような、立派になったような気になるとともに、この世でもっとも偉大な国の一員であることを実感し、それを誇りに思い、そこで生きていることを幸運に感じるようになる。つまり、オバマ大統領のスピーチは楽しい」。オバマの格調高い演説を聴くと、私も気分が昂揚します。それに、落ち着いたバリトンの声と美しい発音が心地よいのです。
「僕はこの仕事を始めて以来、これほど注目されるスピーチを担当したことがなかった。ゴールデンタイムに、全国ネットのテレビで生放送されるスピーチである」。
「僕がどんな仕事をするにせよ、それはオーバルオフィス(大統領執務室)に何らかの形で影響を与えている。あらゆる行動が、世界一影響力のある人物の権威を高めもすれば、傷つけもする」。
「オバマには、民主党員も含め、ほかの政治家とは違う独自の魅力があった。それは、政府には問題解決以上のことができるという信念だ。政府は、国民共通の願いを達成できる。古くからの課題に取り組み、これまでよりも住みよい国にしていける。そのため、オバマ大統領のレガシーの大半が、以前からアメリカ国民を悩ませてきた2つの問題に集中することになった。政治的な課題である医療保険改革と、倫理的な課題である人種問題解決である」。
著者が5年間の勤務を終えてホワイトハウスを去る時、オバマが著者に語った「私たちは完璧ではありませんが、完璧に近づいていく力があります。一マイルずつ、一歩ずつ」という言葉を思い返します。
ますます、オバマを好きになってしまいました。