榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

憲法は国民が時の政府に向かって発する命令だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1471)】

【amazon 『この人から受け継ぐもの』 カスタマーレビュー 2019年4月30日】 情熱的読書人間のないしょ話(1471)

千葉・柏の西光院では、さまざまな色合いのボタンが咲き競っています。

閑話休題、エッセイ集『この人から受け継ぐもの』(井上ひさし著、岩波現代文庫)の中で、とりわけ印象に残ったのは、「憲法は政府への命令――吉野作造を読み返す」です。

「国民の顔が一人ひとり見えてきた時代が大正デモクラシー、吉野作造はそのときのトップランナーです」。

「吉野作造は『立憲』の部分をうんと大きくして、『君主』の部分を小さくしていこうと、当時の明治憲法下でかなり危険なことを一生懸命やっていた学者ということになると思います」。「立憲君主制の君主の部分を少しずつ制限しながら、政治というのは国民がもとになっているのだということを言うだけで、当時は危険思想だった。ひょっとしたら大逆罪にも相当するような危険思想です。絶えず士官学校の生徒が怒鳴り込むやら、国士の人たちが脅かしにくるやら、しまいには玄関を焼かれたりした」。

「吉野作造博士が言うのは、憲法は国民が時の政府に向かって発する命令です。だから憲法は国民の側から時の政府、これはいろいろ政権が変わりますが、とにかく時の政府に向かって発している命令の束です。法律は時の政府が国民に発する命令の束です。常に憲法は法律に優先する。いま僕らはそれが常識みたいに思っています。そして政府の法律が国民が発している命令に合っているかどうか、それを試すためにもう一つ司法が必要である。つまりいまでいう最高裁判所です」。

「昭和20年から21年にかけて、新憲法の制定とかいろいろなことがありました。いま日本国憲法が『押しつけ』であると言う論者がかなり増えてきましたが、これは全く卑怯な、しかも実情に合わない俗説です」。「(日本国憲法の中には)アメリカの独立宣言から、フランスの人権宣言、国際連合の憲章、不戦条約、すべて入っていますから、あれは押しつけられたものでも何でもないんです。日本人がもともと持っていたけれども、途中15年間、司馬遼太郎さんの言い方で言いますと鬼胎、鬼から生まれた子どもたちがそれを隠していたということだろうと私は思っています」。

「吉野作造の雑文集は、いまとなれば珠玉の政治論文といっていいと思います。みんな忘れている思想家の中に、実は今日的問題をきちんと踏まえて、何十年も前に答えを出している人がいた。そういう人をもう一度掘り返して読むという作業をわれわれはしないといけません。今日的な問題をたくさん含んだ、この先のことも含んだ、すばらしい論文をたくさん書いた学者がいて、その学者のものはいまでもちゃんと読めるということを皆さんにお伝えして、私の話を終わります」。

本書のおかげで、吉野作造という学者の存在を知ることができました。