榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

関電幹部が、対立する反原発町長の暗殺を指令していたとは!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1754)】

【amazon 『関西電力「反原発町長」暗殺指令』 カスタマーレビュー 2020年2月2日】 情熱的読書人間のないしょ話(1754)

鳴き声を頼りに、背丈ほどの藪を掻き分け掻き分け10mぐらい進んだ所から、アオジの雄を撮影することができました。桃色のツバキ、赤いツバキが咲いています。因みに、本日の歩数は10,659でした。

閑話休題、『関西電力「反原発町長」暗殺指令』(齊藤真著、宝島社)には、驚くべきことが書かれています。

「合計14基の原発が集中する、福井県若狭湾沿岸の通称『原発銀座』。本書はそのなかの1カ所、大飯郡高浜町にある関西電力の高浜原子力発電所を舞台にした、ある異常な出来事を追ったものである。そのことを初めて打ち明けられた時、事実なら大変なことだが、実際のところは荒唐無稽な作り話だろうと思っていた。情報提供者の仲介で、この異常な出来事の当事者、加藤義孝と矢竹雄兒に何度も会って話を聞いたが、にわかには信じられなかった」。

「取材を重ねていくうちに、とんでもないことを口にし始めた。・・・二人は、1999年12月に関西電力が実施を予定していたプルサーマル(プルトニウムとウランの混合燃料、MOX燃料を使った原子力発電)の計画にあわせて、高浜原発にやってきた。関西電力は当時、国内初のプルサーマルを、高浜原発の3号機と4号機で行なおうとしていた。プルサーマルについては、当時から強硬な反対があった。プルトニウムという毒性の高い物質を使用するからだ。高浜町では、外部から市民団体や活動家が乗り込む騒ぎとなり、町にはシュプレヒコールが溢れた。こうしたなか、加藤と矢竹の二人は、高浜原発の警備を強化するため、関電から事業を委託されたのだ。もっとも、その警備の手法は風変わりだった。獰猛だが命令に忠実な特殊犬を『原発警備犬』として使うというものだった」。著者に質問された矢竹は、「凶器」となる犬の品種を、ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアと即答しています。

「ところがこの事業は、本来の目的から逸脱していく。関電が満を持して計画していたプルサーマルが、想定外の事件(MOX燃料のデータ改竄)によって頓挫してしまい、その余波で加藤と矢竹に、もう一つの想定外の事態が襲った。原発警備犬の事業を管轄し、プルサーマルの遂行にも血道を上げていた関電若狭支社幹部のKが、常軌を逸した『指令』を彼らに放ったのだ。『町長を犬で殺(や)れ!』。Kは高浜原発の現場を統括する責任者であり、地元業者の間では、『高浜の天皇』『高浜原発の天皇』と呼ばれていた。そのKが、原発事業をめぐって対立していた、高浜町の今井理一町長(当時)を襲撃せよと、二人に迫ったのだ。同時に二人は、地元対策のウラ部隊としても利用されるようになった。加藤と矢竹は、Kの『指令』に翻弄されて、最後には警備事業の破綻にまで追い込まれている」。

この現代の日本で起こった紛れもない事実と、その背景が、著者の粘り強く緻密な取材によって、次から次へと明らかにされていきます。

取材は、Kの上司に当たる関電上層部の人物にも及んでいます。

さらに、高浜原発の「影の仕切人」と呼ばれる男も登場します。「『その人は、通称<エムさん>と地元(高浜町)では呼ばれていましてな。少なくとも原発にちょっとでも関わっている者で、このエムさんを知らん奴はモグリや、と言われるような人物なんですわ。同和の実力者なんや』。加藤が話を続ける。『原発がある町いうんは、ご存じのように、莫大なカネが落ちるんですわ。だから仕切人などと言われる輩が幅をきかせることになる。つまり、そのカネの(配分の)仕切り、ということですわな。そういうのを同和の実力者いうか、古株がやるわけですわ。想像できるでしょ?』。『ところが、そういう仕切人を関電は、うまく、利用しますんや』」。

「『地元対策に長けた関電いうんは、最初から、その地元の実力者を抱き込んで、反対する奴なんかを封じ込めてしまうんですな。あとは、利権やなんやかんやあるでしょ? 原発の町には。そういうんを、誰にも文句言わさんように(言わせないように)あらかじめ実力者の『エムさん』を通して、地元に配分させるようなことをするんですわ』。・・・内藤元副社長が懐柔したという地元対策の影のキーマン『エムさん』。そのキーマンは、今も変わらず関電から利用されているという。そして、その現場における『エムさん』の使い手として、Kが暗躍してきたというのだ」。

2019年に、高浜町元助役の森山栄治に関する報道が相次いだことを私たちは知っているが、本書の初版が発行されたのは、これに先立つ8年前の2011年のことです。このことを考えると、著者の取材力には舌を巻かざるを得ません。その的確な取材手法が、強力な説得力を生み出しているのです。