大島真理は、彼女が書評した本を読みたくさせる力を持った魔女だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1795)】
高く積み上がった本に囲まれ、読書に熱中している幼い女の子は、微笑ましいですね。私の書斎に飾っている、気に入りの絵です。
『図書館魔女は不眠症』(大島真理著、郵研社)に収められている「あらゆることへの好奇心を糧に」、「水とともにあった本の流れ」、「樋口夏子に恋をして」――の3篇のエッセイが、強く印象に残りました。
「あらゆることへの好奇心を糧に」は、アナベル・ファージョン著『エリナー・ファージョン伝――夜は明けそめた』の書評です。
「『ムギと王さま』の著者ファージョンはどんな人生をおくったのか、遅ればせながら手に取った伝記。友人のプレゼントの一筆箋にあった絵は、むさぼるように本を読む子どもの姿、心惹かれて辿ると、ファージョンの『ムギと王さま』のアーディゾーニによる優れものの挿絵であった。その原題は『本の小部屋』である」。この挿し絵は、奇しくも私の一番好きな絵なので、嬉しくなってしまいました。
「父親ベンジャミン・ファージョンは作家であったから、家の至る所にあった8千冊の蔵書が、エリナーの創作の元になったことは容器に想像できる。・・・恋愛に奥手であった彼女も、生涯大きな影響を受ける3人の男性と出会う。詩人のデドワード・トマス、出会ったときはすでに妻と3人の子どもがいた。・・・次がジョージ・アール、教区司祭の息子で学識の高い人物だった。またもや既婚の男性で3人の子持ちだったが、二人はのちに結婚する。・・・晩年アールも去った後、役者のデニス・ブレイクロックと出会う。まさに恋多き人生」とあれば、読まずに済ます訳にはいきません。
「水とともにあった本の流れ」は、内田洋子著『対岸のヴェネツィア」の書評です。
「この作家は初めて読んだが、読書への思いが溢れているようなエッセイ、好感がもてた。・・・(ヴェネツィアで)国立公文書館の『ここは、過去から未来への旅の入り口なんです』と言う男性に出会い、本でぎゅうぎゅう詰めになったキャリーバックを引く図書館員と出会い、市立図書館へと導かれる。その図書館のリーフレットには『読むために生まれてきた』という文言がある」。私の好きなヴェネツィアが舞台で、図書館がテーマとあっては、これも読みたくなってしまいました。
「樋口夏子に恋をして」は、中島京子著『夢見る帝国図書館』の書評です。
「図書観が主人公のなんと大それた小説を思いついたものか。・・・(帝国)図書館に心があったなら、樋口夏子(一葉)に恋したに違いないという楽しい妄想、宮沢賢治のカンパネルラの原型ともなった友ダルケとの永遠の別れの場ともなり、芥川龍之介、夏目漱石ら若き作家たちの図書館通いが描かれ、想像するだけでワクワクする。吉屋信子、中條百合子(のちの宮本百合子)の図書館通い、当時は女性の図書館利用は『婦人の室』に限られていた。しかしそれをものともせず、モダンガールたちは通ったという」。実は、『夢見る帝国図書館』は読まないと決めていたのだが、この巧みな書評に触れたら、読まずにはいられなくなりました。