榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

古書店アルバイトの柳田波子、28歳は、自らの性的欲望に忠実な女だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1811)】

【amazon 『私は古書店勤めの退屈な女』 カスタマーレビュー 2020年3月29日】 情熱的読書人間のないしょ話(1811)

あと3日で4月だというのに、我が家の庭にも、しんしんと雪が降っています。

閑話休題、本が大好きな私は、出版社、書店、古本屋、図書館などが舞台となっている本には、つい手が伸びてしまうのだが、『私は古書店勤めの退屈な女』(中居真麻著、宝島社)には、予想を大きく裏切られてしまいました。

オープンして間もない古書店「小松堂」でアルバイトをしている柳田波子、28歳は、雅人、28歳と結婚して4カ月目に、夫の上司・加茂内、34歳と不倫の関係になり、現在も続いているのです。夫にばれてしまったというのに、加茂内との関係をどうしても止められない波子なのです。

「つまり私は、加茂内に欲情した。まさにその時間のその感情の、ど真ん中で。私は加茂内を、欲情するに値する、艶のある、色っぽい、それでいて怖い男だと感じた。その判断は私の心を浮き立たせたが、同時に悲しませた。ほんとうに、そうだった」。

「私は、その一週間後、加茂内と寝ていた。セックスを、していた。知り合って、発作みたいに欲情して、そこからたったのセブンデイズ」。

「ずっと苦しい。加茂内に恋をし続けているせいで、雅人を裏切り続けているせいで、毎日悲しさが更新され、苦しみが蓄積されていく」。

波子と気弱な雅人とのやり取り、波子と加茂内とのやり取りも興味深いが、何と言っても、一番面白いのは、本が好きで堪らない古書店主・小松忠、57歳と波子との、とぼけた味わいの会話です。そして、時折発せられる小松の年輪を感じさせる含蓄のある言葉が胸に沁みます。

「新しく手に入れた本が気に入っているみたいで、小松さんはときおり目を輝かせては、この本シブイでしょ、とか、これ、そうとうヤバイですよ、とうれしそうだ。小松さんはほんとうに本が好きだ。事実、小松さんは三度の飯よりも本を優先させてしまうような人」なのです。

「話変わるけどダンナとは仲良くやってますか」、「最近は(ダンナと)うまくいってるんですか」、「男とはまだ続いてるんですか」と、小松は波子のことを気遣うのだが、波子のほうは・・・。

愛とは何かを考えさせられる、そして、身につまされる小説です。