榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

草刈正雄って、こんなにシャイで正直な人間だったんだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1945)】

【amazon 『人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ』 カスタマーレビュー 2020年8月11日】 情熱的読書人間のないしょ話(1945)

涼しげな熱帯魚たち。

閑話休題、『人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ』(草刈正雄著、朝日新書)を読んで、草刈正雄という俳優が、端正な容姿や演技からは想像できないほどシャイな人間であり、そして、正直な人物であることが分かりました。なお、書名にある「ホン」は台本を指しています。

「いい台本とは、究極のレシピです。書かれているままに演じれば、いい味が出るからです。役者はホンに従えばいい。ホンの通りにすればいい。自分がなにをするべきか、ホンがすべて教えてくれるのです。いいホンとの出逢い。それが人生をも変えることを教えてくれたのが、三谷幸喜さんです。三谷さんの話をしようとすると、自然に笑ってしまうんですよね、とにかく面白いから。何がって?創る世界そのものが、です。時代劇にしても、現代劇にしても、三谷さんの筆にかかると、誰もが身に覚えのある『人間劇』になる。言いたくても言えないことや、その反対に、言いたくないのに言ってしまうこと。人間の裏表やグレーゾーン、はたまたとことん入り乱れるウソとマコトと勘違い。『ああ、そうだよなあ、人間って・・・』。愛すべき人間の魅力というものが、台本のなかに流れ続けているのです」。

「不思議なものです。素の自分はノミの心臓。若い頃から台詞がなけりゃ、女性も口説けない。くよくよといつまでも失敗を引きずってしまうし、体調の良し悪しを気にして寝込んでしまうこともある。この歳になると、体のあっちこっちにおかしなところが出てきて、それはもう恐怖でしかない。診てもらっている医者の先生にも『草刈さんは、ちょっと神経質だからね。これをああして、こうしてくださいね』と言われて少し落ち着くも、またちょこっと変化があるとすぐに落ち込んでしまう。要するに、泰樹(という役柄)と僕は、真逆の人間なわけです。だからこそ、芝居としてこういう器量のデカい男を演じられるのは嬉しくて仕方ない」。

NHK大河ドラマ『真田丸』で草刈が演じた真田昌幸の台詞「わしゃ、腹くくったぞぉ!」について――。「昌幸さん同様、僕自身もずいぶん、空廻りしながら生きてきました。モデルデビュー、CMに抜擢されて、とんとん拍子に俳優デビュー。幸運だと知りつつ、どこか『二枚目俳優』のレッテルを剥がしたかったんです。いまから思えば、当時の気負いは自信がないことの裏返しだとわかるのですが。とはいえ、周囲の予想を『裏切りたい』と秘かに企んでしまうクセは今もそのままに。周りの期待と自分の実力、そして理想の間でバランスをとるのは難しいものです。『芝居が楽しい!』。そう思えるまでに、数十年かかった役者人生です。役者として、いい意味で裏切りたい――。昔からの欲が実を結んだのも、還暦を過ぎてから。それこそ、『腹をくくった』からかもしれません」。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』で草刈が演じた柴田泰樹の台詞「朝日を、思い出したんじゃ。何度も見た、ああいう朝日を・・・開拓してる頃にな。この土地は捨てよう、そう思っても、朝日を見ると、気力が湧いてきた・・・。ここで諦めるなって・・・励まされた。そういう朝日を、なつが見してくれた・・・」について――。「このような台詞を口にすることができる役者という仕事、それを続けてこられたありがたさを、つくづくかみしめたシーンでした。泰樹の人生、そして僕の人生、とよの人生、あるいは高畑(淳子)さんの人生。胸に秘めていても、なかなか言葉にすることができない思いを、脚本家の先生というのは、台詞に見事に昇華させる。僕の言葉ではないのに、僕の『本心』を語っている不思議。役に草刈を重ねて観てくれる方がいれば、それも『してやったり』です。カメラが止まってしばらく、高畑さんと二人で温かい沈黙を味わいました。一言ひとことが、まるで、宝石です。口下手な素の僕では絶対に語れない、『本心』。役者冥利に尽きるとは。このことです」。

草刈さん、私は、NHK・BSプレミアムの『美の壺』のナビゲーターの草刈さんも好きですよ。