榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

戦争文学を読んで、戦争の実態を知ることの重要性・・・【情熱的読書人間のないしょ話(209)】

【amazon 『世代を超えて語り継ぎたい戦争文学』 カスタマーレビュー 2015年10月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(209)

散策中に、交尾中のハネナガイナゴを見つけました。これとは別のハネナガイナゴを写真撮影後、直ちに野に戻しました。撮影に夢中になっていたら、眼鏡のレンズに何かが飛んできて止まりました。見慣れぬ、黄褐色で、白色の紋が10ある4.5mmほどの小さなテントウムシです。図鑑で調べたら、植物に付くうどんこ病菌などを食べるシロトホシテントウでした。朝日が射し込む森は、気持ちがいいです。因みに、本日の歩数は11,449でした。

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閑話休題、対談集『世代を超えて語り継ぎたい戦争文学』(澤地久枝・佐高信著、岩波現代文庫)には、二人の熱い思いが籠もっています。「自らの体験をえぐりだす痛みに耐えつつ、あの戦争で生き残った人間、文学を志す者としての業苦と責任をかかえ、戦争を描いた文学者たちがいる。いくさで死んだ男たち、その家族である女や子ども。人間としての誇りも、平凡な日常生活のかけがえのなさも、奪い砕き去った戦争。その日本人と、『標的』になった他国の人たちの思いと姿が、文学作品として描かれ、遺産のように残されていると思う」。「戦争をまったく知らない戦後世代が多数派になった今、戦争が個々人にとってどんなものであったか、知ってもらいたいと思う。知って判断する習慣の確立ということもある」。「忘れられ埋没してしまいそうな戦争についての文学者の証言。その作品を読むことから、若い人たちに戦争を直視し考える姿勢が生まれることを望む」。「語り継ぐ戦争文学。私たちを道案内として、どうか先人が刻み残した戦争の日々をくぐってみてほしい」。「戦争に答えはない。戦火で虚しく奪われる命、奪われる日常生活など、誰のために必要なのだろうか。あなたの人生の前途を考えるきっかけを私も模索する。無知だった私が戦後、文学作品によって戦争を知り、かつての戦争から学ぶ手がかりを得たように、世代を超えて、あなたと共有できる適切な証言を探しにゆきたい」。「戦争を将の立場で見るか、兵の立場で見るかで180度それは姿を変える。私たちが選んだ作品はすべて、兵とその家族から戦争を捉えたものである」。

五味川純平の『人間の條件』について。「最前線で捨て駒の兵隊は壊滅してゆく。説明しにくい愚かな作戦の限りを尽くした果てに捨てられた兵隊たちが、無残に踏みにじられて死んでいったことを、五味川さんは書かずには死ねないと思ったのでしょう。自分は生きて帰ってきたけれどもね。それが五味川さんに『人間の條件』を書かせたし、そのあとの作家活動を支えていたと思う」。「あれは明らかに反戦、反軍小説です。それが目的で書かれたものだし、日本の社会というものがどんなに不条理で理不尽なものであるかということを、一般家庭の女性も含めて、日本人の問題として問わずにはいられないということだったと思います」。

反戦川柳作家・鶴彬の川柳――手と足をもいだ丸太にしてかへし。

大岡昇平の『レイテ戦記』について。「『レイテ戦記』は大岡さんが、日本から見ただけではなく、アメリカ側から見た視点も含めて、完璧なレイテ島の戦闘を書こうとした。それから、戦う二つの国の双方が同じように傷つくけれども、戦場になった土地の国の人たちもどれだけ犠牲を強いられたか忘れてはならないと、繰り返し書いている。だから客観的な形で全部書いていかなきゃならない。これは苦しいですよね」。「レイテ戦には信じられないような錯誤や、御都合主義的な敵の下算、非論理性やナショナリズムなどが赤裸々に露呈されています。よもやまた戦争をしようなどと思う人間は出てこないと思っていたが、それは間違いだったと大岡さんは書いています。だから書く。死んだ兵士たちにかわってね。そういう責任が生き残った自分にはあるという思い。中隊の誰かれのことを話す時、大粒の涙をこぼして泣いておられた」。「戦後文学を論じる時、『レイテ戦記』ははずせません。すぐれた文学性があります」。

城山三郎の『落日燃ゆ』について。「『落日燃ゆ』というのは、読み方によっては痛烈な天皇制批判ですね」。「(『落日燃ゆ』の主人公の)広田(弘毅)が極東国際軍事裁判(東京裁判)で被告になったとき、広田夫人は自殺しますね」、「あれは一つの選択じゃないですか。・・・奥さんが亡くなったのは、『世界中が敵になろうとも、私はあなたを支持します』ということではないでしょうか。・・・あれは戦勝国に対する一つの抗議でもある。『夫は何も言わないけれども、私は夫を100%信じています』ということでしょう」。「文学の世界だけでなく、昭和史への証言として、『落日燃ゆ』という作品は大きいと思う」。

長谷川如是閑が提唱した「戦争絶滅受合法案」について。「戦争行為の開始後または宣戦布告の生じたる後10時間以内に次の処置をとるべきこと、すなわち次の各号に該当する者を最下級の兵卒として召集し、できるだけ早くこれを最前線に送り敵の砲火の下で実戦に従わしむべし。①国家の元首とその一族、②総理大臣、国務大臣、次官、③国会議員(ただし戦争に反対の投票をした者を除く)、④キリスト教または他の寺院の僧正、管長、高僧にして公然戦争に反対せざりし者。前記の兵卒資格者は年齢、健康状態を斟酌すべからず、なおその資格者の妻、娘、姉妹は看護婦または使役婦としてもっとも砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし」。如是閑は、デンマークのフリッツ・ホルムが起草したものという形を取っていますが、硬骨の言論人・如是閑本人が考案した可能性も捨て切れません。如是閑の提案は、戦争を決心する者と、戦争によって血を流す者の不公平さを皮肉っているのです。

若者に止まらず、広く読まれるべき、戦争文学の最高の読書案内です。