榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

映画監督・小林正樹が大作『人間の條件』を撮った理由・・・【情熱的読書人間のないしょ話(697)】

【amazon 『映画監督 小林正樹』 カスタマーレビュー 2017年3月14日】 情熱的読書人間のないしょ話(697)

雨が上がりそうなので、散策に出かけました。雨に濡れたパンジーは趣があります。ウメの花びらが地面を紅白に染め分けています。ボケがたくさん花を付けています。モクレンが咲き出しました。因みに、本日の歩数は10,455でした。

閑話休題、これまでの人生で私が強烈な衝撃を受けた映画が3作品ありますが、そのうちの1つが『人間の條件(第一部、第二部、第三部、第四部、第五部、第六部)』です。この映画の監督が小林正樹です。

小林正樹という人間と、彼の作品を俯瞰的に集大成したのが、『映画監督 小林正樹』(小笠原清・梶山弘子編著、岩波書店)です。

「小林正樹は『戦中派』の映画作家である。あの戦争に当事者として参加し、殺し殺される地獄を味わい、仲間が次々に死んでいく中、九死に一生を得た。そして『第二の人生』を使って数々の傑作映画を撮った。そういう作家である」。

「無理やり戦争に協力させられた被害者としての怒りと、加害者になってしまったことへの罪の意識。『人間の條件』に限らず、小林正樹の戦争映画には、小林自身が身をもって体験したそのような二重性が、基調低音のように鳴り響いているようにみえる。小林は、戦争ファシズムの悲惨さを被害者として告発するとともに、その担い手として自らが犯さざるを得なかった罪を見つめ直し贖うためにこそ、つまりそういう当事者としての個人的な動機があったからこそ、戦争映画を撮り続けたのではなかろうか」。「小林にとって、戦争映画を作ることこそが、自らの忌まわしい戦争体験を昇華するための手段であったし、戦争を知らない世代に対する責任の果たし方だったのだと思う」。

「戦争の記憶を都合よく書き換えたプロパガンダの付け入る隙も広がりつつある。反戦映画の体を装いつつ特攻隊員の死を美化したメロドラマ『永遠の0(ゼロ)』の大ヒットなどは、その典型であろう。現代の日本人、特に若い世代は『人間の條件』よりも『永遠の0』を観る人のほうが多いであろうから、後者のほうが『人々の頭の中の戦争のイメージ』を形成しかねないのではないだろうか。私たちがいまこそ認識しておかなくてはならないのは、そうしたプロパガンダの浸透が、下手をすると『次の戦争』を精神的に準備しかねないということである」。私も同じ危惧を抱いています。

『人間の條件』は第一部~第六部で9時間38分と長い作品ですが、若い人たちにぜひとも見てもらいたい映画です。