榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

読書に関する、佐高信と佐藤優の縦横無尽の対談集・・・【山椒読書論(368)】

【amazon 『世界と闘う「読書術」』 カスタマーレビュー 2013年12月28日】 山椒読書論(368)

世界と闘う「読書術」――思想を鍛える1000冊』(佐高信・佐藤優著、集英社新書)は、共に辛口で鳴る読書家、佐高信と佐藤優の読書に関する対談集である。佐藤が、「ひと言でいうと、現在は悪の力が強まりつつある時代なのである。佐高信氏とこの本を作った理由は、現実に存在する悪と闘うためだ」と宣言している。

彼らは、権威ある著者・作品、人気のある著者・作品であろうと、彼ら自身の観点から滅多切りにしている。一方、世間の批判に晒されている著者・作品であっても、彼らなりの基準で高評価している。いずれのケースも、その根拠を明らかにしている。

私にとって一番興味深かったのは、五味川純平についての対談であった。
・佐藤:『戦争と人間』で面白いなと思うのは、五味川純平はこのテーマに基づいて3回、書いているんです。まず最初に書いたのが『人間の條件』です。・・・そして2作目に書いた『戦争と人間』・・・彼(五味川)が前書きでいっています。「戦争が人間に教えた嘆きと怒りは、その一断面を『人間の條件』で書き得たかもしれない。けれども、戦争と人間の、多様な、重層的な、錯綜した、いのちがけの、しかも時にはきわめて無意味な諸関係には、ほとんど筆が及ばなかったことを自覚せずにはいられなくなった」。
・佐高:『人間の條件』は、もちろん組織の中の人間を描くんだけれども、人間に焦点を当てているわけですよね。ところが、それでは戦争を描けないということです。・・・そこで、組織の中の人間、組織と人間という難しい問題に挑戦したと。
・佐藤:それでもう一ついいたいのは、『戦争と人間』を書くプロセスにおいて、五味川は『人間の條件』と同じテーマをノンフィクションで書いているんです。『虚構の大義』です。同じテーマを3回書くというのは、作家としてはものすごく大変な話だと思うんですよ。でも、五味川純平の強さは、そこまでして自分史にこだわるということです。自分史にこだわる中で、それに大きな構造の拡がりを持たせるということです。やっぱり彼の物書きとして、人間としての誠実さなんですよね。
・佐高:自分を苦悩の極地に追い込んだ戦争を解明せずにはおくものかという凄まじい熱気がありますね。・・・だから、まさに現代史の必読書なんですよ。

また、こういう嬉しい発見もあった。
・佐高:ナチスドイツから逃れるユダヤ人を助けたのでは杉原千畝が有名ですが、軍にも樋口季一郎という人がいますよね。陸軍の軍人で、亡命ユダヤ人の満州通過を許可した人です。
・佐藤:芙蓉書房出版から彼の自伝が出ていますね。『陸軍中将樋口季一郎回想録』という。樋口季一郎に関しては、キスカ作戦が秀逸です。日本軍の歴史に残る作戦です。突っ込め突っ込めの日本が、全員撤退するという作戦を組むのは、このキスカだけなんです。霧に紛れて、包囲していた米軍に気づかれずに全員撤退に成功したんです。突っ込め死ねというのと違う哲学を持って、実際にそれを指導することができたという、珍しい指導者です。

望蜀の感があるが、私の敬愛する松本清張にも言及してほしかった。