榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

書店員の匂いがするエッセイ・書評集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2049)】

【読書クラブ 本好きですか? 2020年11月23日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2049)

ネリネ(ダイアモンド・リリー。写真1~3))がさまざまな色合いの花を咲かせています。ヘンヨウボク(クロトンノキ、クロトン。写真4)の赤い葉が目を惹きます。我が家では、マンリョウ(写真5、6)の実が陽に輝いています。

閑話休題、書店で働く人の手になる本というと、つい手が伸びてしまうのは、私が書店での仕事に憧れを抱いているからです。

暗がりで本を読む』(徳永圭子著、本の雑誌社)は、書店勤めの著者の匂いがするエッセイ・書評集です。

「携わった店は、その後の成長も気にかかる。定跡を外さず、旬を逃さない棚作りに正解はなく、頭の中でいつも新たな図面を引いている。お客様の目に足に馴染んだ図面が出来ていくので、不用意に変えると互いの調子が狂ってしまう。棚に本を並べながら、無言の会話が繰り返されて、店は出来ている。丸善丸の内本店が出来て間もない頃、出張で棚を見てきた本の卸しをする取次の担当者が『大きくて圧巻でした。たくさんの人で作ったと思うんですが、所々、匂いがしましたよ』と笑った。こんなにも温かい目線で支えてくれた彼は早逝してしまい、博多の新しい店を見せることができなかった。本当に口惜しい。棚を作る時、私の色を出そうとはもう思わなくなったが、匂いくらいはしてもよいかなと、時折思う。棚の前でよく似た後ろ姿を見かけるとはっとする。もちろん、別人。思わず目が合って『何かお探しでしょうか』を声をかけて、ごまかす。捜しているのは私の方だ」。

「書店員として『お客さんが何を買ったか誰にも話してはならない』と教育されている。何十年もそれを守っているけれど、『絶景本棚』は読んだら噂をせずにいられない。職業も年齢も様々な三十四人の本棚のカラー写真を、堂々公開。何がすごいって、背表紙のほとんどがはっきりと読み取れること。高い撮影・印刷技術が駆使されている。社会経済学者の松原隆一郎氏や作家・京極夏彦氏の本のために誂えられた憧れの書斎もあれば、編集者・日下三蔵氏の約八万点、崩壊気味の書棚や校正者で辞書研究家・境田稔信氏の辞書二十六棹分といった魔窟や迷宮も多数。インタビュアー・吉田豪氏に至っては、浮き沈みの激しいタレント本の間にドレミまりちゃん号(天地真理の自転車)や特捜最前線のボードゲームなどお宝?が溢れている。エッセイスト・宮田珠己氏の書棚は、歴史や文学、ひとつのことを長く考えさせる本たちが、博物学への興味や旅情を奮い立たせる。数年前までどこの書店にもあった独自の好奇心や冒険心が詰まっていた。あの感じ、どこへ行ってしまったのだろう。・・・のぞき見趣味と言われようと、棚見物はやめられない。私の書棚が雪崩ている現実には目を瞑って」。

「たくさんの本を読む人に出会い、私ももっと本を読める人になりたいと思ってきた。読むことの難しさを痛みのように感じることもあり、すべて手放したらどんな暮らしが待っているのだろうと思うけれど、もうそれすら想像できないところへ来てしまった。抱いた不安や嫉妬を捨て去ることは難しい。私よりもたくさんのことを知っている、多くの物語を持っている人へのあこがれを纏って、僅かでも近づくために本を手にする日々はこれからも続くと思う」。