榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

谷崎潤一郎の生涯と作品を理解するには、最高のガイドブック・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2130)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年2月11日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2130)

首を羽に埋めて休んでいるのは、マガモ(写真1、2)の雄、雌でした。ハクセキレイ(写真3~5)、スズメ(写真6)、オタフクナンテン(写真7)、ハボタン(写真8)をカメラに収めました。

閑話休題、『谷崎潤一郎を知っていますか――愛と美の巨人を読む』(阿刀田高著、新潮社)は、谷崎潤一郎の生涯と作品を理解するには、最高のガイドブックです。

●妖艶なデビュー=『刺青』、『お艶殺し』、●母性への憧れ=『母を恋うる記』、『少将滋幹の母』、『夢の浮橋』、●女性は主張する=『痴人の愛』、●モチーフはなんだろう=『卍』、『蓼喰う虫』、●悲しくも凛々しく=『盲目物語』、●首肯されますか=『春琴抄』、『蘆刈』、●美女と鼻なし=『武州公秘話』、●大正期の二本道=『二人の稚児』、『人面疽』、『白昼鬼語』、●庶民の愛のコメディ=『猫と庄造と二人のおんな』、●鶴は幸いにして雪に妙なり=『細雪』上・中巻、●美はすでに滅びて=『細雪』中・下巻、●文学と女性の関わり=生涯と作品を訪ねて、●若い人には薦めないが・・・=『鍵』、『瘋癲老人日記』――と、実に丹念に辿られています。

阿刀田高は薦め上手なので、若い時に途中まで読んで放り出した、老夫婦の性生活を剔抉した『鍵』に挑戦したくなってしまいました。「『鍵』は紛れもない文豪が、老人の欲望と性を描いてあからさまであったから発表のときにはおおいに話題となり、批判を受け、顰蹙を買った」。

谷崎と芥川龍之介の交友について、興味深いことが記されています。「二人は古くからの知己であり、たがいにその文学を敬愛しあっていたことは疑いない。だが高く評価しながらも(それ故に、と言ってもよいが)しばしば論を交えている。芥川の自殺の直前に交わされ、世に『筋のない小説』論争と呼ばれて、谷崎の『饒舌録』や芥川の『文芸的な、余りに文芸的な』などに断片的に綴られているものがあって、これは相当にややこしい。すなわち谷崎は小説における筋のおもしろさを重視し、それは物の組み立て方、構想のおもしろさ、建築的な美しさであり、この構造的美観をこそ肝要とした。これに対して芥川は、それをあからさまに否としたわけではないが、文学にとっては材料を生かすための詩的精神があるかどうか、詩的精神を燃え立たせるかどうかこそが大切、話らしい話のない小説がもっとも詩に近い純粋な小説とした。巷間には、――小説は、やっぱりストーリーのおもしろいのがいいよなあ――という意見が多いだろうが、芥川はあえて文学の本質に、存在理由にこだわったのだろう。しかし、これはまあ、奇才同士のジャブの応酬、この論争にわれら庶民が深く関わることもあるまい」。

「谷崎は芥川について追悼の意味をこめて、こんなことを書いている。一端をのみ記しておこう。『私はいつも故人(芥川)の批評眼の正確にして卓越していること、その趣味の広汎なこと、学問の幅の広いこと、古今東西の芸術はもとより人物評などもかなり細かく、皮肉なところを見ていることにしみじみ感心したもので、ただの茶飲み話をしてさえ教えられることが多いのだから、せめてこの人がなにか纏まった評論でも書いてくれたら、どんなにか文壇を益するかしれないと思ったくらいだった。見識や批評眼のない者に勇気はいらない、が、人を傾聴せしむるに足る立派な意見を持ちながら、しかも勇気がないこと、これ実に悲しむべき芥川君の欠点であった』。小説は必ずしも芥川に向いたジャンルではなかったのかもしれない」。

谷崎の女性関係もなかなか面白いのだが、長くなりそうなので、引用は止めておきましょう(笑)。