榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ツァラトゥストラが30歳の陽気な若者であったとは!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2512)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月4日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2512)

クリスマスローズが咲いています。

閑話休題、『ドイツ文学の道しるべ――ニーベルンゲンから多和田葉子まで』(畠山寛・吉中俊貴・岡本和子編著、ミネルヴァ書房、シリーズ・世界の文学をひらく)は、いろいろと工夫が凝らされていて、読み応えがあります。

●ヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの悲劇『ファウスト』
「完成まで約60年かかった『ファウスト』は文字通りゲーテのライフワークである。・・・辛気臭い研究室から、空飛ぶマントでメフィストフェレスと脱出したファウストは、享楽と官能の世界に飛び込む。魔女の秘薬で若返った彼は、敬虔で無垢な娘グレートヒェンと恋仲になる。彼がヴァルプルギスの夜に魔女たちと享楽に耽る間、彼女は嬰児殺しの罪を犯し、投獄される。処刑前夜、ファウストは恋人の救出を試みるが拒否される。メフィストフェレスの『彼女は裁かれた!』と空からの『救われた!』の声が交錯するなか、グレートヒェンがファウストの名『ハインリヒ!』を叫ぶ声が響いて舞台は暗転、幕を閉じる」。この第一部の粗筋を読んで、敬遠してきた『ファウスト』を読みたくなりました。

●ザッハー・マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』
「オーストリア=ハンガリー二重帝国時代のチェコ・プラハで生まれたカフカも、マゾッホによる文学的影響がたびたび指摘されている」。「『毛皮を着たヴィーナス』の主人公ゼヴェリーンは(ワンダという美しい未亡人から)奴隷としてグレゴールという名前を与えられるが、これはカフカの小説『変身』の主人公と同名である」。迂闊にも、本書に指摘されるまで、『毛皮を着たヴィーナス』の「グレゴール」と『変身』の「グレゴール」が同名であることに気づきませんでした。なお、本書では、フランツ・カフカの『審判』は、『訴訟』というタイトルで取り上げられています。

●フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェの『ツァラトゥストラはこう語った』
「ニーチェの代表作である『ツァラトゥストラはこう語った』の主人公は、哲学者でありながらも重苦しい陰気さとはまったく無縁の若々しいキャラクターとして設定されている。ツァラトゥストラは、とにかくよく笑い、太陽の光を浴びながら歩きまわり、ときには軽やかな踊りまで披露してみせるのだ。もっとも、ツァラトゥストラの主な活動は、放浪の旅のなかで弟子たちに説教することなのだが、そこには晩年のニーチェが到達した『超人』と『永劫回帰』をめぐる独自の思考が凝縮されている」。「基本的に『ツァラトゥストラはこう語った』は一人の聖人の言行録という体裁をとっており、『聖書』をはじめとする経典のパロディをなしているといえる」。ツァラトゥストラが30歳の陽気な若者であったとは!――私の頭の中で混乱が起こっています。