榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

遊郭・吉原のポジティブな側面にスポットを当てた一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2274)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年7月4日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2274)

久しぶりにヒヨドリを目にしました。カタツムリをカメラに収めました。

閑話休題、『吉原はスゴイ――江戸文化を育んだ魅惑の遊郭』(堀口茉純著、PHP新書)の著者は、吉原のポジティブな側面にスポットを当てようとしています。「たしかに吉原は性風俗を主な産業として成り立つ風俗街であり、そこで働く遊女たちは性的サービスを提供することで金銭を得る女性という意味で売春婦。彼女たちの労働は過酷であり、現代人のモラルでは到底容認しがたい、果てしなくブラックな業態がまかり通っていました。これは紛れもない事実であり、この点に関して私は美化や正当化をするつもりはありません。・・・私は本書で、遊郭・吉原のポジティブな側面、すなわち、いかに江戸文化の形成に貢献し、同時代の人々にとって大切な場所であったのかをお伝えしたいと思っています」。吉原は、江戸人たち憧れの、独特の工夫に満ちた夢の世界であり、吉原の花魁(おいらん)は、大スターで、流行の発信源でもあったというのです。

遊客が登楼したときのルールが詳細に説明されています。「●初会(1回目の登楼)=宴席の支度がととのうと、(引付)座敷に遊女がお供を連れてやって来て上座に座る。当たり前のように遊客が下座だ。・・・よそよそしいまま宴席は進み、遊女と盃を交わすことになるのだが、これは下界でいう三々九度の盃のようなもの。遊客と遊女が吉原で擬似夫婦になることを意味し、晴れて床入りとなる。・・・当然、全く盛り上がらないが、初会とは得てしてこんなもので、顔合わせの意味合いが強かった。●裏(2回目の登楼)=当然のように催される宴席の座敷では、花魁が初会より20センチ弱近づいて座ってくれたようだ。多少は打ち解けた雰囲気で床入りとなった。●馴染(3回目の登楼)=遊女が床入りで初めて細帯(寝間着帯)を解く、つまり全裸になるというのだ(逆に今までの床入りでは何してたの・・・)。遊女はかなり打ち解けた様子で、後朝(きぬぎぬ)の見送りも2回目までは妓楼の玄関だったのが、大門までついてきてくれるようになるし・・・それまでツンツンした対応だっただけに、デレっと好意的になられたときの心理的破壊力たるや。いわゆるツンデレこそ遊女が馴染客をひきつける極意といえるかもしれない」。

「この面倒くささは、江戸人にとって吉原で遊ぶことが、単に性行為のみを目的とするものではなかったことを証明している。てっとり早く性欲処理がしたいのならば、岡場所(幕府非公認の私娼街)に行けばよいのだ。江戸の町中にはそういう場所はたくさんあったのだから。ではなぜ、江戸人は面倒くさい吉原での遊興を愛したのか。・・・吉原は幕府公認の遊郭、つまり公に開かれたオフィシャルなハレの場であり、まさしく公界(くがい)であったのだ。公界としての吉原を大いに活用したのが一流文化人たちである。・・・狂歌の歌会が多数催されたし、書画や音曲のお披露目会の会場、浮世絵師とパトロンの交流の場としてもよく利用された。これは吉原が、参加者同士が士農工商の身分や肩書にとらわれず、文化を愛する一人の紳士として向き合い、交流できる社交サロンとして機能していたからに他ならない。新興都市である江戸で多種多様な文化・芸能が生まれ、成熟しえたのは、吉原があったからだと言っても過言ではない」。

遊女たちの悲惨な実態を忘れてはいけないが、こういう書籍の存在意義もあると考えます。