決して豊かではなかったヨーロッパが世界を支配できたのは、なぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2287)】
オオシオカラトンボ(写真1~4)の交尾と産卵を目撃しました。交尾後、雌が打水産卵するのを、その少し上空で雄が護衛しています(はなはだ不鮮明だが、黄色く見えるのが雌、青白く見えるのが雄)。トンボの抜け殻(写真5)を見つけました。アオスジアゲハ(写真6~10)が吸水しています。アブラゼミの雄(写真11)、コガネグモの雌(写真12、13)、雄(写真14)をカメラに収めました。コガネグモの雄の体の大きさは雌の1/5程度しかありません。ホオジロの幼鳥(写真15、16)に出会いました。
閑話休題、『16世紀「世界史」のはじまり』(玉木俊明著、文春新書)には、驚くべきことが記されています。
決して豊かではなかったヨーロッパが世界を支配できたのは、なぜか。著者は、その答えは、ヨーロッパによるグローバル化にあるというのです。イベリア半島のスペインとポルトガルの船がアジア、新世界に達し、世界を一つに結んだからです。その世界交易ネットワークには戦国日本も組み込まれていました。本書は、著者のこの主張の正しさを証明することを目的に書かれています。
「古代ローマは地中海を内海とする大帝国を形成し、モンゴルはユーラシアにまたがる大帝国を築いた。しかし、本当に世界全体を覆った帝国を形成したのは、19世紀後半のヨーロッパだけであった。いったい、それはなぜ可能になったのか。その原因を、16世紀にまで遡って探究し、さらに日本を含めたグローバルな文脈のなかで考察したいと考えて末に出来上がったのが本書である」。
「ヨーロッパの世界制覇は、16世紀の対外進出からはじまった。ヨーロッパは世界中に進出したが、16世紀においては、先駆けとなったのはスペインとポルトガルというイベリア半島の2国であった。当時のヨーロッパの情勢を考えたなら、この2国が、とくにイエズス会という組織と関係しながら世界に拡大していたことこそが、世界史を動かしたと思うのである。その関係は、以下のように説明できよう。ヨーロッパでは、1517年にマルティン・ルターにより宗教改革が引き起こされた。その影響は、西欧全体におよんだ。プロテスタントがはじめた宗教改革に対し、カトリックが開始した対抗宗教改革により、宗教改革の影響は文字通り世界に飛び火した。宗教改革、さらには対抗宗教改革の影響で、ヨーロッパ各地で宗教戦争が勃発した。戦争のため、ヨーロッパ諸国では多額の戦費が必要になり、財政制度が近代化していった。戦費調達を目的として公債を発行し、それを長期間にわたって返済するようになった。ヨーロッパ各国は国民に税金を課し、徐々に国境は中央政府が税金をかけられる範囲を意味するようになり、近代国家=主権国家が誕生したのである」。
「どのような宗教であれ、信者を獲得しなければ、生き延びることは不可能である。したがって信者の獲得とは、必然的にマーケティング活動の要素を帯びる。この時代は市場化が進んでおり、その要素は以前よりも強くなった。宗教改革家は、信者の獲得のために、グーテンベルク革命により発展したパンフレットによるプロパガンダを利用した」。
「大航海時代の口火を切ったイベリア半島の2国は、ローマ教皇庁のバックアップを受け、世界を二分した。それを現実に強行することは不可能であったが、スペインは主としてアメリカ大陸で、ポルトガルは主にアジアで、植民活動に従事し、それとともに、イエズス会がヨーロッパ外世界で活発な布教活動に従事した。・・・(イエズス会士たちは)世界各地で布教・商業活動をおこなった。商業活動には武器輸出も含まれており、イエズス会は死の商人としても活動したのだ。この当時、ヨーロッパが他地域に輸出できる数少ない商品に武器が含まれており、その中心は火器であった。イエズス会は、軍事革命を世界各地に輸出する原動力として機能した。さらにイエズス会は、科学の輸出の担い手でもあった。科学革命を迎えていたヨーロッパ科学の成果を輸出した。それはとりわけ、中国に輸出されたのである」。
「イエズス会は、日本に武器とキリスト教を輸出した。日本は、イエズス会によって、世界商業のネットワークの一部に組み込まれることになった」。
「ヨーロッパは、確かに、軍事力によって世界を支配した。だが、それと同時に、ヨーロッパの文化・商業システムを他地域に輸出し、世界をヨーロッパ化した。そのようなソフトパワーがあったからこそ、ヨーロッパは、世界を支配することができたのである」。
著者の説は当時の世界情勢を的確に捉えており、その論理展開は説得力があります。玉木俊明には、『逆転の世界史――覇権争奪の5000年』や『逆転のイギリス史――衰退しない国家』でも驚かされたが、ますます目の離せない歴史学者となってきました。