榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

何を読むかで人生が決まる・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2462)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年1月13日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2462)

モズの雌(写真1~4)、ハシブトガラス(写真5)、コイなどの淡水魚(写真6)、ミナミメダカ(クロメダカ。写真7)をカメラに収めました。

閑話休題、『人をつくる読書術』(佐藤優著、青春新書INTELIGENCE)で、著者の佐藤優は、よい本を読み、よい友を持てと呼びかけています。

著者は、教養をこう捉えています。「『教養とは、想定外の出来事に適切に対処する力である』。それまで経験したことのない状況や出来事に対して、どう判断しどう行動するか。単に知識の断片があるだけでは対応できない。情報力、洞察力、想像力、分析力、判断力など、その人の全人格、能力が試され、『総合知』が不可欠になる。それがすなわち教養だと私は考える」。

著者の指摘で、とりわけ印象的なのは、下記の3つです。

●「本を読む順番」を間違えてはいけない――
「ニーチェは天才で、あらゆる価値観、価値体系は虚構であると説きます。神や宗教はその虚無に耐えられない『弱い人間』がつくりあげた、ある種の幻想にすぎないというわけです。神をつくり出すことでこの世に価値を見出し、生きる力を得る。ただし、それでは人間はいつまでも神の前で弱いままです。ニーチェはそこで超人思想をつくりあげます。神や宗教に頼らない、人間が主役となる世界に住むためには、神に代わる『強い人間』に変わっていかなければならないというわけです。『最初にこのようなニヒリズムを下手に身につけたことで、世の中のあらゆることが馬鹿らしく、レベルの低いものに感じてしまった。それによって若いうちに身につけなければならないことをしないまま、いまに至ってしまった』と岡部(宏)先生はいっていました。・・・『ニーチェは哲学史の中では一種の異端です。ですから読むのは最後がいい。まずデカルトやパスカル、カントやヘーゲルといった本流、正統な哲学をしっかり学ぶべきです』」。幸いなことに、私がニーチェの思想に触れたのは、人生の中盤に至ってからでした。

●型を知ると「型破り」な人間になれる――
「哲学に限らず、読書というのは『型』を知るという意味で非常に大切です。哲学を学べば思考の鋳型がわかるように、心理学の本を読めば心の型がわかるようになる。文学を学べば人間の型がわかるようになります。『型』を知り、それを身につけることで、私たちはその型を打ち破って新しいものを手に入れることができる。これがすなわち『型破り』ということです。型をまるで知らないうちに斬新なことをしようとしてみても、それはただの『でたらめ』にすぎません」。まさに、「守破離」ですね。

●ミステリーやSFは思考を補強してくれる――
「ミステリーは思考力や推理力をつけるうえでよい分野でしょう。池上彰さんは鋭い分析と洞察に基づくニュース解説などでおなじみですが、ミステリーを読むことで分析力や洞察力を身につけることができたといいます。池上さんは、新人記者時代に優秀な先輩記者から松本清張をすすめられてから、すっかりミステリーファンになったそうです。良質のミステリーにはさまざまなトリックや伏線が仕掛けられているため、情報の真偽を見極める力や選択眼が磨かれます。主人公と一緒に犯人捜しをすることで、注意力、分析力、洞察力が自然に鍛えられます」。私も松本清張の熱烈なファンだが、「良質の」ミステリーという要件が味噌ですね。

著者はカール・バルトを高く評価し、神の存在を支持しています。「バルトは人間の意識と感情に神をつくる部分があるにしても、そういう意識をもつ人間が生まれたのはどういうことかと考えます。もしかすると人間の外に神が存在していて、その力によって人間の意識と感情にその種を植えつけている、影響を与えているということも考えられるのではないか。人間は自分の意識と感情でしか神を認知できないが、だからといって外部に神がいないという結論にはなりません。そもそも神は人間をはるかに超えた存在であるとすれば、人間の認識を超えた存在であると考えても矛盾はしません」。佐藤優が神の存在を信じることは彼の自由であるが、私はニーチェの考え方のほうに賛成票を投じます。