深夜喫茶で向い側に居合わせた若い男女に起こった、思いもかけないこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2476)】
遂に、バード・ウォッチャー榎戸の長年の夢が叶いました。千葉・松戸の「21世紀の森と広場」で、ルリビタキの雄(写真1~7)の撮影に成功したからです。因みに、本日の歩数は13,833でした。
閑話休題、短篇集『親しい友人たち――山川方夫ミステリ傑作選』(山川方夫著、高崎俊夫編、創元推理文庫)によって、山川方夫という作家を初めて知りました。
収められている『赤い手帖』は、愛とは何かを考えさせられる作品です。
行き場所がなくなり満員状態の深夜喫茶に入った演出家の「彼」は、たまたま空いた、恋人どうしらしい若い男女の向い側のシートに座ります。「そのカップルは彼の存在がよほど気になったとみえ、それまでのひそひそ話を中止すると、娘がハンド・バックから小さな赤革の手帖を出し、二人は、それで筆談をはじめていた。交互に頁をめくってはなにかを書き、それを見てはまた細い鉛筆をうけとる。ことに娘のほうは、相手が読んでいるときじっとその横顔をみつめていて、それはけっこう愉しげな光景にも眺められた。男は工員ふうで黄色いナイロン・ジャンパーを身につけ、娘は淡いピンクのカーディガンを、きちんと喉もとまで釦をはめて着ていた。きっと両方とも、まだ十七か八か、そこいらだろう。一杯のハイボールを空にすると、彼は腕を組み、目をつぶった。すぐ眠った」。
朝が来て、「店の客のほとんどは姿を消し、向い側の席にいた二人づれも、その姿がなかった。忘れたのか、汚れた黒い卓の上に、昨夜みたあの赤革の手帖が斜めに置かれている。それが、ふいに彼に昨夜のいっさいを思い出させた」。
なに気なく赤革の手帖を持ち帰った彼が、中を見ると、交互に筆談が交わされています。「ませてやがるな。思いながら、彼は奇妙な微笑ましさと同時に、二人がひどく愛という言葉に拘泥しているのに、ちょっと意外なものをかんじていた。いまどき、こんなにも『愛』などという言葉を尊重し、必要とする若い男女がいるという事実に、なにか虚をつかれたような気分だった。だが、いずれにせよ、高校三年というのだから、どうせ十七か八だろう。その娘が、なんとかかんとかいいながら、結局のところは父母なんかは『カンケイナイ』と無視して、好きな同じ年くらいの男と堂々とシケ込みに行くのだからリッパなもんだ。コワクテ、イタイノ、アイッテ、フフフ、か。おたがいのオヘソのことまで書いてやがる。たいしたタマじゃありませんか。ぶらぶらと仕事の待つ局へと帰りながら、彼は、おれも二十七か、年をとったな、と思った」。
ところが、その夕、彼は、あの二人について、思いもかけない事実に直面させられます。
山川方夫という未知の書き手に出会えた幸運を噛み締めています。