榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ドイツのメルケル、ニュージーランドのアーダーン、フィンランドのマリンは凄いぞ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2609)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月8日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2609)

東京・文京の小石川後楽園ではハナショウブが見頃を迎えています。因みに、本日の歩数は16,867でした。

閑話休題、『女たちのポリティクス――台頭する世界の女性政治家たち』(ブレイディみかこ著、幻冬舎新書)に登場する女性政治家の中で、とりわけ興味深いのは、ドイツのアンゲラ・メルケル、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン、フィンランドのサンナ・マリンの3人です。

●メルケル(『小説幻冬』2019年1月号・2月号に掲載)
「EUの枢軸国ドイツの首相を13年間も務めてきたメルケルは、文字通りヨーロッパの中心にどっしりと座る漬物石のごとき存在だった。ところが、実際にはこの漬物石こそが世界の混乱を招いてきたという見方もある。刻々と状況が変わるうつろいやすい時代にあって、この石はあまりに固く、いろんな意味で重過ぎたというのだ」。

「メルケルはコール元首相に目をかけられ、『コールの娘』と呼ばれるほどになる。男性のお偉いさんからかわいがられることによって出世の階段を上っていったのだ。・・・が、『政界の父』コールに闇献金疑惑でババがつくと、あっさり寝返り、いきなり新聞紙上で彼への絶縁状を発表。これがきっかけでCDU初の女性党首になるのだから、おきゃんなフェミニストよりよっぽど非情というか、見切りが早い。コール元首相は後に彼女を暗殺者と呼んだ。・・・この点(フェミニスト)では、メルケルはミセス・クリントンとは好対照である。『傷つけられないように口を閉じ、ぐっと我慢して、注意深く機会を狙う』タイプ。ドイツのジャーナリストはメルケルをそう評している」。

「将来的には、彼女はユーロ危機と難民危機の対応を行った首相として名を残すことになるだろうが、保育の改革、最低賃金の導入、同性婚の合法化など、保守的なCDUの首相にしては社会民主主義寄りの政治を行ったことも忘れてはならない。彼女はこうして保守派だけでなく、中道左派の票を奪うことにも成功したのだ。また、本人が『私はフェミニスト』とは言わなくても、彼女の政権下のドイツでは、各界に女性リーダーたちが多く誕生することになった。慎重、堅実、目立たない、質素。メルケルを形容する言葉はどれも地味だが、それがメルケル流『女が成功する方法』であり、ドイツの女性たちはそれに学んだという声もある」。

著者のメルケル評はいささか辛口だが、私はメルケルを政治家としても、一人の人間としても高く評価しています。

●アーダーン(『小説幻冬』2019年6月号掲載)
「日本語で『アーダーン』と検索したらあがってくる関連キーワードが『アーダーン かわいい』であることからもわかるように、ニュージーランドの30代の首相は、ひとむかし前なら花形アナウンサーとして首相にインタビューをしていたようなルックスの女性である。そのような若い女性が、『バッド・ガイを倒す』だの『うちの国が一番』だのマチズモぷんぷんのハッタリをかますのではなく、楚々とした風貌で断固とした決断を下し、するすると物事を成し遂げていく。これは確かに新しい政治家の時代の到来を感じさせる」。

「人の目に自分がどう映るかを常に意識したアーダーン首相は、『インスタジェニックな政治』をやっている政治家なのだ」。

著者はアーダーンに対しても厳しい見方をしているが、COVID-19に対するアーダーンの決断を見ていると、政治家として大いに期待できそうです。

●マリン(『小説幻冬』2020年2月号掲載)
「フィンランドで、現職としては世界最年少となる首相が誕生した。しかも、それが女性なので、画期的な出来事として世界中の話題をさらっている。彼女は34歳のサンナ・マリン元運輸相・通信相。・・・さらに、現在の5党による連立政権の党首は、彼女を含めて全員が女性であり、そのうち4名は30代前半という、文字通り『若い女性たちが回す国』が北欧に誕生したのだ」。

「彼女はいわゆる『レインボーファミリー』で育った。母親とパートナーは同性カップルであり、賃貸アパートの部屋で二人に育てられた。子どもの頃にはオープンに自分の家族について人に話すことができなかったので、自分のことを『不可視の存在』と感じていたという。しかし、彼女の母親はいつも協力的で、その気になれば何でもできるんだと彼女に信じさせてくれた。彼女は一家の中で初めての大学進学者になったそうだ。政界でめきめきと頭角を現し、人口20万人の都市タンペレで、弱冠27歳にして市議会議長に就任。2015年には国会議員に当選した。2019年6月から運輸・通信相を務めていたサンナには、2018年に生まれた娘がいる。早速、リベラルの未来を担う新たな星として世界を騒がせている彼女は、34歳という年齢やそのプログレッシヴな政治理念、そして子どもがいるワークングマザーであることから、ニュージーランドのアーダーン首相とよく比較されている」。

ロシアのウクライナ侵攻を機に、国論をNATO(北大西洋条約機構)加盟へ大転換させたマリンの政治力は注目に値します。