新型コロナウイルス感染症対策の切り札mRNAワクチンの開発者カタリン・カリコ・・・【MRのための読書論(194)】
切り札
『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(増田ユリヤ著、ポプラ新書)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の切り札mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンとはどういうものか、それはどのように開発されたのか、その開発者カタリン・カリコとはどういう人物なのか――を知るには、最適な一冊である。
mRNAワクチン
mRNAは、DNAの情報をコピーして使う役割を担っている。「そもそも私たちの体の中には、タンパク質の情報があれば、その情報をもとにタンパク質を自動的に作ってくれる仕組みがある。この原理を使って、今回のmRNAワクチンは作られたのだ。ただ、ここで使うmRNAは、新型コロナウイルスの情報をもとに人工的に作ったmRNAである。ウイルスのRNAの中の突起を作る設計図の部分だけをマネして、つまり人工的に合成して、それを脂質の膜で包んだものが、今回のmRNAワクチン。これを体内に入れることによって、新型コロナウイルスの突起と同じタンパク質を作れという指令を出させるのだ。(免疫細胞の)B細胞は、突起を手に入れると、その突起にくっつくタンパク質を作り出す。突起にタンパク質がくっついてしまうと、人間の細胞に侵入できなくなる。つまり、このタンパク質が抗体だ」。
カタリン・カリコ
ファイザー+ビオンテックのワクチンもモデルナのワクチンも、ハンガリー人でアメリカ移民の女性、カタリン・カリコが40年に亘り研究を続けてきたmRNAを使った技術を元にしたため、迅速なワクチン開発が可能になったのである。
本書では、次から次へと襲ってくる苦難を乗り越えて開発を成功させたカリコの研究過程が臨場感豊かに描き出されている。
2つの問題点
カリコはmRNAの研究で新しいタンパク質の生成に成功する。「これが、ワクチン開発の肝となる、mRNAに特定のタンパク質を作る指令を出させる、という最初の発見だったのだ」。
mRNAは細胞に加えると炎症反応を引き起こすため、人間に対して使用するのは不可能と思われていた。「mRNAのウリジンにtRNA(トランスファーRNA)と同じ化学修飾(かざり)を施し、それを細胞に与えてみた。すると、見事に炎症反応を引き起こさなかった」。RNAには、設計担当のmRNA,運搬担当のtRNA、製造担当のrRNA(リボソームRNA)の3種類があり、それぞれがタンパク質を作る時の役割を担っている。カリコは、tRNAには、mRNAにはない化学修飾があることに気づき、これが炎症を引き起こさない理由なのではないかと考えたのである。「シュードウリジンを施したmRNAを使うと、炎症が抑えられるばかりか、タンパク質の設計図であるmRNAがどんどん細胞の中に入っていき、大量のタンパク質が作られることがわかったのだ」。現在のワクチンには、シュードウリジンにさらに修飾を加えて改良したメチルシュードウリジンが使われている。
mRNAの技術を使ったワクチンは壊れ易くて不安定という問題を抱えていたが、カリコは脂質の膜で覆うことで不安定さを克服することに成功する。「これにより、ワクチンや治療薬などに活用することができるようになった」。
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