榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

小企業がコロナ・ワクチンを開発できた理由・・・【続々・独りよがりの読書論(2)】

【にぎわい 2022年12月15日号】 続々・独りよがりの読書論(2)

一つのウイルス感染症が人々の生活スタイルを変えてしまった。将来、歴史の転換点と目されるかもしれない。それはともかく、我々医療関係者にとって衝撃的だったのは、製薬企業のあり方に無視できない一石を投じたことである。

このことは、『mRNAワクチンの衝撃――コロナ制圧と医療の未来』(ジョー・ミラー、エズレム・テュレジ、ウール・シャヒン著、柴田さとみ・山田文・山田美明訳、石井健監修、早川書房)が如実に物語っている。新型コロナウイルス(COVID-19)が世界中に恐慌をもたらしている最中に、ワクチン開発の実績を誇る大手製薬企業たちよりも早く、11カ月という常識外のスピードで、世界初のmRNAワクチンの開発に成功してしまったのが、ファイザーと組んだ、ドイツの小さなバイオ・ヴェンチャー、ビオンテックだったからである。

こんな離れ業が可能になった経緯は本書に詳しく記されているが、私には、己の得意技に揺るぎない自信を持ち、明確な目標に向けて、これまた、さまざまな得意技を持つ乗組員たちを率いて、荒レ狂う海を果敢に乗り切っていく小さな船の先頭に立つ船長と副船長の姿が見える。

船長はウール・シャヒンというトルコからの移民、副船長は、その妻で、やはりトルコからの移民のエズレム・テュレジである。そして、「ライトスピード・チーム」の乗組員は、60カ国以上の専門家たちであり、その半数以上が女性である。ウールとエズレムは、科学においても人生においても、優れたアイディアなら、その出自を問わず採用することを信条としてきたのである。