榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

認知症の人は、どういう苦しみを抱えているのでしょうか?・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2627)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月26日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2627)

ズッキーニ(写真1、2)が花と実を、ナス(写真3、4)が花と実を付けています。

閑話休題、『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』(佐藤眞一著、光文社新書)は、精神的に重い一冊です。

認知症は薬で治るのでしょうか? 「医療では、副作用の割に効果が低いとの理由で、アリセプトなどの認知症薬の保険適用廃止が、ヨーロッパで始まりました。認知症の根本治療薬は、いつできるのか目処も立っていませんし、生活改善やサプリメント、訓練などで認知症を治すこともできません。このような、いわば手詰まりの状況の中で、最後の砦は認知症ケアです。認知症になっても自分らしく幸せに暮らすには、ケアの質を高め、ケアをよりよいものにしていくことが、現状ではほとんど唯一の方法だと言ってもいいでしょう」。認知症を考えるとき、この大前提は重要です。

ケアの質を高めるには、どうすればいいのでしょうか? 「ケアの質を高めるには、認知症の人とのコミュニケーションがとても重要です。認知症とは、端的に言えば、認知機能の低下によって『日常生活に支障が出た状態』であり、日常生活はコミュニケーションによって成り立っているからです。しかし、認知症の人とのコミュニケーションはうまくいかないことが多く、認知症の人の日常生活は不如意なことだらけ。しかも、会話が成り立たないことによって、認知症の人はどんどん孤独になっていきます。つまり認知症ケアでは、いかにコミュニケーションを図るかが、とても重要です。私たちが認知症ならではの会話の特徴を知り、その特徴に合った会話を心がけてコミュニケーションを図れば、認知症の人の孤独感や疎外感が緩和されて、生活もずっとスムーズになるはずです」。

こういう研究結果も報告されています。「(高学歴化による)教育年数が長いとは、若い頃に知的活動をたくさんすることを意味し、そうでない人に比べて、その後も知的活動に親しむ人が多いと考えられます。その結果、『認知の予備力(コグニティブ・リザーブ)』が増し、認知症になりにくくなるのではないか、というのです。認知の予備力とは、脳細胞がダメージを受けても、それをカバーする力のことです。・・・実際に、米国の疫学研究者。デヴィッド・スノウドン博士が1986年に始めた『ナン・スタディ』によって、教育年数が長い人ほど認知症になりにくい傾向があることがわかっています。・・・しかしそれでは、知的な活動をしていれば認知症にならないかというと、そうではありません。認知症になった人は知的活動をしてこなかったのかといえば、そんなこともありません。・・・人一倍頭を使った人でも、認知用にならないわけではないのです」。

認知症は予防できるのでしょうか? 「現在、認知症予防にいいとされているもので、認知症を予防できるという科学的な証拠があるものはありません。研究は世界中でなされていますが、まだ結果が出ていないのです」。

認知症の人は、どういう苦しみを抱えているのでしょうか?
(1)自分が自分でなくなっていく苦しみ
①自分が認知症だと知る苦しみ
②相手に合わせざるを得ない苦しみ
③人に見せたくない自分を見せてしまう苦しみ
(2)日常生活ができなくなる苦しみ
①趣味の活動や食事を楽しめない苦しみ
②運転したり、料理を作ったりできない苦しみ
③出かけて帰れなくなる苦しみ
④歯磨きや着替えができない苦しみ
(3)「未来展望=希望」を失う苦しみ
①明日がどうなるかわからない苦しみ
②家に帰りたいのに帰れない苦しみ
(4)自分だけが別の世界に生きる苦しみ
①自分がなぜここにいるかわからない苦しみ――プライドとの闘い
②自分の言うことを誰もわかってくれない苦しみ
③「特別な人」として扱われる苦しみ
  
認知症の人と共によりよく暮らす方法はあるのでしょうか? いろいろ挙げられているが、印象深いのは、この3つです。
●怒らない、否定しない、共感する
●認知症の人の立場に立って考える
●認知症の人の苦しみを共有する

本書のおかげで、認知症に対する理解を深めることができました。