同音異義語の漢字がこんなに多いのには、ちゃんとした理由があったのだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2676)】
オカトラノオ(写真1)、メマツヨイグサ(写真2)、キキョウ(写真3、4)、マツバボタン(写真5)、カシワバアジサイ(写真6)が咲いています。我が家の庭で、遅蒔きながら、矮性のアサガオ(写真7、8)が咲き始めました。
閑話休題、『漢字が日本語になるまで――音読み・訓読みはなぜ生まれたのか?』(円満字二郎著、ちくまQブックス)では、日本における漢字の歴史が興味深く解説されています。
「正確に言うと、音読みの元になったのは現代中国語の発音ではなくて、奈良時代やそれ以前に日本に伝わって来た古い時代の中国語だ。録音が残っているわけではないからはっきりしたことはわからないけど、研究によれば、当時の中国語は現代中国語よりもさらに発音が複雑で、母音的な要素は200以上、子音は40くらいあったと推測されている。音読みとは漢字の中国語としての発音が日本語風に変化して生まれたものだ。さらっと『日本語風に変化して』なんて言っていたけれど、その実際は、種類がとても多い中国語の発音を、種類が少ない日本語の発音に当てはめて表現するということだったんだ。どうしたって、もともとはちがう発音だったものを同じ発音の中に押しこめざるを得ないよね。その結果、同じ音読みをする漢字がとても多くなってしまったというわけだ」。
「古文で(歴史的仮名遣いで)『わらふ:』と書いてあることばは、現代文では『わらう』になる。古文では『やうす』となっていることばは、現代文では『ようす』と書き表す。これが、歴史的仮名遣いと現代仮名遣いのちがいだね。・・・『こうしょう』と読む同音異義語について、歴史的仮名遣いだとどう書き表されるか、見てみよう。ついでだから、参考までに現代中国語の発音も付けておくことにするよ。●校章 かうしやう シアオジャン、●行賞 かうしやう シンシャン、●高唱 かうしやう ガオチャン、●高尚 かうしやう ガオシャン、●考証 かうしよう カオジョン、●交渉 かうせふ ジアオショー、●甲匠 かふしやう ジアジアン、●鉱床 くわうしやう クワンチュワン、●公傷 こうしやう ゴンシャン、●工商 こうしやう ゴンシャン、●公称 こうしよう ゴンチョン、●口承 こうしよう コウチョン、●哄笑 こうせう ホンシアオ。ご覧の通り、現代仮名遣いではみんな『こうしょう』なのに、歴史的仮名遣いだとだいぶちがう。『かうしやう』『かうしよう』『かうせふ』『かふしやう』『くわうしやう』『こうしやう』『こうしよう』『こうせう』の8つに分かれているよね。これはどういうことなのだろう? 歴史的仮名遣いとは、平安時代の発音を元にして日本語を書き表す方法だ。つまり、ぼくたちが『わらう』と言っていることばを、平安時代の人たちは『わらふ』と発音していた、ということだ。『やうす』だって、文字通り『やうす』と発音していたんだ。ということは、ここに挙げた『こうしょう』の同音異義語も、平安時代の昔には8つの異なる発音で読み分けられていた、ということになる」。
「とても複雑な中国語の発音のちがいのすべてを、日本語で再現することは不可能だ。とはいえ、昔の日本人は一生懸命に漢字を勉強して、その発音をそれなりに細かく聴き取って多様な音読みを生み出した。しかし、その多様さは時代の流れとともに失われてしまったんだ。歴史的仮名遣いで表される発音から、現代仮名遣いで表される発音への変化は、室町時代から江戸時代にかけて起こったと言われている。この時期に日本語の発音は単純化した。・・・日本語全体の発音に歩調を合わせて音読みの発音も単純化したということは、もともとは中国語だった音読みが、このころには完全に日本語になっていたのだともいえる。同音異義語の大量発生はたしかに困ったことだけど、それと引き換えに、ぼくたちは大量の『元中国語』を日本語として使いこなすことができるようになった、というわけだ」。