榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ガリバーは日本にもやって来ていた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2760)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年11月6日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2760)

キジバト(写真1~3)が水浴びをしています。シオン(写真4、5)、キク(写真6~9)、ウキツリボク(アブチロン・メガポタミクム。写真10、11)が咲いています。カキ(写真12)が実を付けています。

閑話休題、ガリバーが小人国、巨人国だけでなく、馬の国や日本も訪れたことは知っていたが、皮肉屋のジョナサン・スウィフトによって当時の日本がどう描かれているのか気になったので、『ガリバー旅行記』(ジョナサン・スウィフト著、柴田元幸訳、朝日新聞出版)を手にしました。

ガリバーは、小人国、巨人国を訪ねた後、日本の約500km南東に位置する国・ラグナグを訪れます。<日本の帝とラグナグの王とは親密な友好関係にあり、両国のあいだでは船舶の行き来も頻繁にあります。そこで、欧州に戻ることを視野に入れて、まずはこのラグナグ国に向かうことにきめました>。訳者の柴田元幸は、「日本まで行けばヨーロッパに帰れるかもしれない、とガリバーは考える。日本はおはなしの世界と現実の世界の接点に選ばれているのである」と注を付けています。

<私は役人相手に、いくつかの要点を手短に語り、話がなるべくまっとうに聞こえて筋も通るよう努めましたが、自分の国については事実を隠し、オランダ人だと名のるのが得策だと判断しました。日本へ行くのが私の目標であり、日本に入国を許される欧州人はオランダ人だけだと知っていたからです>。

<バルニバービでも日本でも、在任中に多くの人々と話す機会がありましたが、いずれの国でも長寿こそ人類普遍の望みであり、願いなのだとつくづく感じました。棺桶に片足をつっ込んだ人間は、もう一方の足もそこに入らぬよう、精いっぱい抗うものです。どんなに年老いた人間でも、もうあと一日生きたいと欲します。死をこの世で最大の悪と見なし、死から逃れようとするのは人間の性>。

<あいにく私の日本滞在はごく短期間でしたし、日本語にはまるで通じていませんから、いろいろ問いあわせることも叶いませんでした>。

<日本へ向かう船が見つかり、15日間の船旅を経て、ザモスキという、日本の南東部にある小さな港町に到着しました。狭い海峡の西の端に位置する町で、この海峡が北へのびて腕のように細長い海に入りまして、その北西に都イェドがあります。・・・都に着いて、帝に謁見を許され(ラグナグ国王の)親書を差し出しますと、先方はさも物々しく開封して、通訳がその内容を陛下に伝えました。すると通訳を介して帝のご意向がこちらに伝えられ、願いごとあれば言うがよい、ラグナグ王とは君主同士のつき合い、何でも叶えてやろう、とのお言葉でした>。注が付されています。「むろん当時、現実の帝は京都にいたわけで、ガリバーが天皇と将軍を混同しているようにも思えるが、西洋では、日本にはエンペラーが2人いる(天皇と将軍)という認識も広まっていた。ここでも将軍を指している可能性は大いにある」。

<1709年6月9日、実に長きにわたる厄介な旅の末に、ナンガサックに着きました。ここに『アンボイナ』号なる、アムステルダムから来た、450トンの頑丈な船が停泊しておりまして・・・この船旅では、格段言うべきことも起きませんでした。順風に恵まれて喜望峰に着き、水を補給しただけでまた先へ進んで、4月6日に無事アムステルダムに着きました。・・・程なくアムステルダムから、小さな地元船で英国に向けて発ちました>。

この後、ガリバーは馬の国を訪れます。この馬の国に関して、巻末の訳者の解説にこういう一節があります。「白色人種の『人間』、黒色人種の半人間『黒奴』、そして旧日本人の家畜『ヤプー』から成る未来帝国を描いた、社会の習慣・制度・風潮を想像力が次々吐き出していくそのすさまじい勢いにおいて『ガリバー旅行記』の正統な末裔と言える沼正三の『家畜人ヤプー』(1956年~?)に挑んでみるべきかと思う」。