榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

各種動物の器官の比較を通して、進化を考えようという意欲的な著作・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2795)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年12月11日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2795)

ジョウビタキの雄(写真1~3)、シジュウカラ(写真4、5)、コゲラ(写真6)、オカヨシガモの雌(写真7)をカメラに収めました。ツバキ(写真8)が咲いています。我が家の庭では、マンリョウ(写真12、13)が実を付け、毎年やって来るジョウビタキを待っています。

閑話休題、『キリンのひづめ、ヒトの指――比べてわかる生き物の進化』(郡司芽久著、NHK出版)は、各種動物の器官の比較を通して、進化を考えようという意欲的な著作です。

とりわけ興味深いのは、肺、心臓、腎臓の3つです。

●肺
「肺という器官は、脊椎動物の仲間が(水中から)地上へと進出するはるか前から、すでに作られはじめていた。それはいつか陸に上がるためではない。酸素の少ない温かい池の中では、たまたま肺のような器官をもっていた個体が生き残りやすかっただけだ。化石記録に残っていないだけで、きっとほかにも、さまざまな『進化の試行錯誤』が行われていたのだろうと思う。4億年前にできた『喉の奥の小さな袋』は、長い時間を経て肺となり、脊椎動物の仲間が陸上に進出する際、大きな役割をはたすことになったのだ」。

●心臓
「血液循環のルートは、脊椎動物の進化の過程で少しずつ複雑化してきた歴史がある。・・・魚類の『1心房1心室』から鳥類・哺乳類の『2心房2心室』へと変化していく様子をたどっていくと、長い進化の歴史を通じて、心臓の構造が少しずつ複雑化していく様子が見てとれる。ただし気をつけなければならないのは、魚類の『1心房1心室』が、哺乳類の『2心房2心室』に劣っているわけではない、ということだ」。

●腎臓
「どの動物も、生きていく過程で必ず生じる『毒』と向き合う必要がある。毒をため込んだら死んでしまうからだ。腎臓の進化は、『どんなかたちで毒を排泄するのがよいのか』を追求する歴史でもある。毒の排出方法は、それぞれの生物が生活する環境に応じてさまざまだ」。

「心臓も肺も腎臓も、私の意思とは関係なく、一日中休むことなく動きつづけ、命を支えてくれる。呼吸する。血液を送る。食べたものを消化し、栄養をとる。尿を作り、排泄する。日々あたりまえに行っていることは、奇跡にも思えるほど精巧で複雑な器官によって成り立っているのだ。そう思うと、なんだか少しだけ自分が誇らしく思える。自分自身にがっかりしてしまったとき、絶望してしまったとき、『自分が素晴らしいと思える存在』が体内にたしかに存在し、いつもと変わらず働きつづけていることは、私にとってひとつの救いだった」。

「さまざまな生き物の体の構造を見比べていくと、メリットのみの進化なんてごくごく一部の例外なのではないだろうかと思わされる。さまざまな制約があるなかで、デメリットを受け入れたうえで、『それでもなんとかうまくやっていける』という妥協点を探る過程が、進化の本質なのかもしれない」。著者の進化の核心を衝いた考え方が説得力を持って迫ってきます。