ほとんどの人は本質的にかなり善良だという主張は、本当に正しいのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2817)】
シジュウカラ(写真1)、ヒヨドリ(写真2)をカメラに収めました。ナンテン(写真3、4)が実を付けています。
閑話休題、『Humankind 希望の歴史――人類が善き未来をつくるための18章』(ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳、文藝春秋、上・下)は、人間は本質的に利己的で攻撃的で、すぐパニックを起こすという見方は間違っており、ほとんどの人は本質的にかなり善良だと主張しています。
本書は、この自説を証明するために、さまざまな事例を収集・考察しているが、とりわけ興味深いのは、「本当の『蠅の王』」、「イースター島の謎」、「『ミルグラムの電気ショック実験』は本当か」――の3つです。
●本当の『蠅の王』――
ノーベル文学賞を受賞したウィリアム・ゴールディングの小説『蠅の王』では、無人島に漂着した少年たちは憎み合い、殺し合ったが、その実話版ともいうべき1977年のトンガにおける6人の少年たちの無人島漂着事件は『蠅の王』とは正反対の経過を示しました。少年たちは、思い遣りと協力によって、救出されるまでの1年以上、無人島で全員が生き延びたのです。
「わたしは著者(ゴールディング)の人生を調べて、彼が非常に不幸な人間だったことを知った。彼はアルコール依存症で、抑うつ的で、自分の子どもを虐待した。『わたしはいつもナチスのことを理解していた』とゴールディングは告白している。『なぜなら、わたしもそういう性質だからだ』。そして、『蠅の王』を書いたのは『いくらかは、その悲しい自己認識からだった』」という記述には、本当に驚かされました。
●イースター島の謎――
トール・ヘイエルダールとウィリアム・ムロイのコンビやジャレド・ダイアモンドの影響を受けて、人間の愚かさの象徴と見做されてきたイースター島の崩壊の真の理由が、歴史学、地質学、人類学、考古学を駆使することによって明らかにされています。
貪欲さに限界がない島民による森林破壊と人口増加がイースター島を滅亡させたという説は正しくなく、島の森がすっかり消えてしまったのは、最初に島に辿り着いた人々の舟に潜り込んでいたナンヨウネズミ(ラッツス・エクスランス)によるものだったというのです。そして、最終的に、イースター島はペルーの奴隷商人と彼らに起因する天然痘ウイルスに滅ぼされてしまったのです。
●「ミルグラムの電気ショック実験」は本当か――
人間の凶暴性を証明した心理学実験として有名なミルグラムの電気ショック実験について、なぜ被験者は相手を感電死させかねないボタンを押したのか、その背景が追究されています。
実験を行った28歳の心理学者、スタンレー・ミルグラムは、「人間には生まれつき致命的な欠陥があり、そのせいで、子犬のように従順に振る舞い、きわめて恐ろしいことも平気でする」と主張しました。しかし、「舞台監督としての才能、ドラマを見出す慧眼、テレビ受けするものを見きわめる鋭い感覚」を備えたミルグラムが、自分の考えを証明しようと、被験者たちを誘導した巧妙な手口が暴かれています。
読み応えのある、心にひりひり感を与える刺激的な著作です。