榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

プーチンを直接知る人たちへのインタヴューが明らかにしたこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(293)】

【amazon 『プーチンの実像』 カスタマーレビュー 2016年2月6日】 情熱的読書人間のないしょ話(293)

通りかかった民芸店の店先に置かれている木彫りの人形と目が合いました。長い髪を束ねて後ろに垂らし、腰蓑をまとった、いかつい顔の南洋の男が中腰で鏡を支えています。彼が私の心許せる友人になって、何年も経ちました。

P1060160

P1060157

P1060156

P1060163

閑話休題、『プーチンの実像――証言で暴く『皇帝』<ツァーリ>の素顔』(駒木明義・吉田美智子・梅原季哉著、朝日新聞出版)は、朝日新聞特派員の、ウラジーミル・プーチンを直接知る人たちへのインタヴューが基になっています。

日本、ロシア、欧州、イスラエル、米国の約20人から得られた、伝聞や臆測ではない証言によって、プーチンの人間像を多面的に描き出すことに成功しています。

「最初から彼は本質を見せていた。『警官』だ。もっと正確にいえば、KGBの男、それも防諜畑だ。被害妄想を抱くことを仕事としている人物だ」。

「プーチンというのは、第1に、すぐに答えを出してくれる人物だった。彼が支持してくれるにしても、支持してくれないにしても、これは、政治指導者にとってとても重要な資質だと私は思う。第2に言えることは、彼は言ったことには責任をとるということだ。彼がどこで仕事をしているときも、この点は変らなかった。これも、プーチンが他の指導者と違うところだ」。

「プーチンはなぜ、まったく無名の存在からあっという間に大統領にまで上り詰めたのか。プーチンが東ドイツ・ドレスデンのKGB支部で見せた度胸。年長者に気に入られる『人たらし』の才能。サンクトペテルブルクで発揮した行政手腕。そして、ボスにすべてを捧げる忠誠心。・・・大統領エリツィンが健康を損なっていた政権末期に権力を意のままに操った政商、故ボリス・ベレゾフスキーをはじめとするエリツィンの『セミヤー(家族)』と呼ばれた側近グループだった。彼らは、自分たちの意のままになる大統領候補を求めていた。・・・しかし、5月7日に正式に大統領に就任したプーチンがまず着手したのは、『セミヤー』をはじめとする政商たちの影響力排除だった」。

「2000年に大統領となったプーチンは、その後一貫して政権の崩壊や民衆による反政権運動に強い嫌悪感を示してきた」。

「今は、プーチンは権力を完全に独占してしまった。誰も、個人としても組織としても、彼に圧力をかけることはできない。政党も、企業も、地方の権力もだ。15年間を振り返ってみると、いかに周到に、悪魔のようにずるがしこく、政治的な反対勢力を消去していくプロセスが進んでいったのかがわかる」。

「共産党などの組織でもなければ、集団指導体制でもない。プーチン個人が君臨するソフトな全体主義。それが今のロシアの権力構造だ」。

「プーチンは賢い指導者の常として、リベラルとタカ派の双方に支えられ、バランスを取って政治を進めている。そのバランスが今、大きくタカ派に傾いている。それは、プーチンだけの意図ではない。・・・しかし、将来プーチンは誰を支えにするのか。タカ派なのか、リベラルなのか。今は残念ながらタカ派に傾いているが、将来もそれが続くのかどうか」。

「明らかに新帝国主義的な考え方が支配するようになっている」。

「ウクライナ危機の中で生じた最大の問題はプーチンの言葉を誰も信じなくなってしまったことだ」。

「ウクライナ危機後、欧米による経済制裁に加えて原油価格の下落に見舞われ、ロシア経済は先行き不透明な情勢だ。プーチンの言葉には、国民の動揺を抑えるために、外敵の存在を強調して団結を促す狙いもあるだろう」。

「愛国主義という虎を檻の外に放ち、乗りこなそうとしている。だが、虎を再び檻に入れようとした時に、虎は素直に戻るのか。どうすれば、虎に食べられずに虎から降りることができるのか」。

「プーチンがクレムリンで執務をする日は発表よりも、実はかなり少ない。その分、モスクワ郊外の公邸やロシア南部のソチの別邸で長い時間を過ごしているようなのだ」。

「北方領土問題の解決とは、ただ島を引き渡せば済むという問題ではない。その先が大事だ。現に欧州ではソ連の勢力範囲だった東欧諸国は自由になったというのに、NATOに加担して、軍事的にロシアへの対決姿勢を強めている。『日本だってそうならないとは限らない』。プーチンは、そう言いたかったのかもしれない」。

「最大のポイントは、この部分だ。プーチンは『そこ(北方領土)にはロシア国民が住んでいる』と述べた。『そこはロシアの領土だ』とは言わなかった」。

「ロシアの戦略的な地位は重要だが、人口は独仏を合わせた程度で、経済力も弱いまま。みんな分かってはいるが、外交は大人の関係だから言わないだけだ。プーチン自身も自分の国の限界を十分に知っているはずだ」。

肯定的、否定的な証言の双方を踏まえてプーチンを立体的に捉えているため、プーチンの実像に迫るのに恰好な一冊です。