ウラジーミル・プーチンは、6つの顔を持つ強かな戦略家だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(742)】
散策中に、滅多にお目にかかれないクマガイソウを見つけました。ネモフィラが咲いています。ヤマブキとヤエヤマブキは印象が大分異なります。セイヨウシャクナゲが真っ赤な花をたくさん付けています。因みに、本日の歩数は10,743でした。
閑話休題、国際政治の趨勢を把握しようとする時、ロシアの動向を無視するわけにはいきません。ロシアを理解するには、ウラジーミル・プーチンを理解せねばなりません。この意味で、『プーチンの世界――「皇帝」になった工作員』(フィオナ・ヒル、クリフォード・G・ガディ著、濱野大道・千葉敏生訳、新潮社)は、大変役に立つ一冊です。プーチンの善し悪しを評価することを目的とせず、彼の考え方と行動を私たちの前に冷静に提示しているからです。
著者は、プーチンは一筋縄では行かない複雑な人間であると述べています。「国家主義者」「歴史家」「サバイバリスト」「アウトサイダー」「自由経済主義者」「ケース・オフィサー」という6つの顔を持つ強かな戦略家だというのです。
プーチンは、ロシア国家の復活を望む国家主義者と自ら名乗り、ロシア国家の復活に向けたヴィジョンを語っています。ロシアは常に強力な大国であらねばならないという信念の持ち主なのです。
予てプーチンは歴史家を自称してきました。大統領就任以来、プーチンと彼のチームは歴史認識を巧みに使って政治的な立場を強化し、重要な出来事の骨格を描いてきました。プーチンは歴史の持つ力を認識しており、歴史は彼自身や国家の目標を実現するための手助けになるだけでなく、正当性という名のマントで自身やロシア国家を覆い隠す手段にもなり得ることを熟知しているのです。
プーチンが第二次世界大戦中、ロシア史の中でも指折りの暗黒時代を生き抜いた人間たちの子孫であるということは大きな意味を持っています。戦争や困窮という個人的な生存に関わる体験がプーチンをサバイバリストにしたのです。
サンクトペテルブルク育ちのプーチンは、自分は政治の中心であるモスクワから距離を置くアウトサイダーだという意識を強く持ち続けています。
プーチンが自由経済主義者である背景には、彼の2つの考えが潜んでいます。1つは、ロシアが現代世界の中で生き残るには、市場経済システムの導入以外に道はないということ。もう1つは、市場システムで勝利するのは、必ずしも商品やサーヴィスを適正な価格で提供することに長けた人々ではなく、他者の弱みに付け込むのが得意な人間であるということ。
サンクトペテルブルク副市長時代の、企業への対応、食糧スキャンダルへの対応に、かつてのKGBケース・オフィサーとしての訓練や任務で培った教訓が役立ったことが、プーチンにケース・オフィサーとしての道を歩ませ続けることになりました。二度と同じ失敗をしないよう万全の策を講じるのがケース・オフィサーの必須条件なのです。
プーチンが敬愛するドイツ人が、ドイツの首相を務めたヘルムート・シュミットとゲアハルト・シュレーダーであり、敬愛するアメリカ人が米国の国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーだというのは、興味深いことです。
「まず、西側諸国の多くの人々はプーチンを見くびりすぎである。彼は目標実現のためならどれだけの時間や労力、汚い手段をも惜しまない人間であり、使える手段は何でも利用し、残酷になることができる。次に、西側諸国の識者は戦略家としての彼の能力を読み違えている。プーチンは単なる戦術家ではない。彼は戦略的な思考に長け、西側諸国のリーダーたちよりも高い実行力を持っている。その一方で多くの人々は、プーチンが私たちのことをほとんど知らないという点を見逃している。私たちの動機、考え方、価値観について、彼は危険なほど無知なのである。プーチンは西側の人間たちのことをどうとらえているのか?――それを理解しようとして初めて、彼の行動の論理、彼自身が従う論理が見えてくるだろう」。
プーチンの大きな戦略目標は、ロシアの国益を守ることであり、戦略家プーチンは、国家としてのロシアの地位の復活、強化、保護を念頭に、牙を磨き続けているのです。