榎戸誠の超短篇小説『青い鳥と老人』・・・【情熱的読書人間のないしょ話(番外篇)】
野鳥撮影は木戸の趣味である。撮影仲間の池見のブログを見て驚いた。雄のルリビタキが鮮明に写っているからだ。青く美しい冬鳥はバード・ウォッチャーたちの垂涎の的である。
木戸より4歳年下の池見は毎日、自宅近くの運河沿いを経て、ある大学が管理する広大な森林を数時間かけて歩いている。従って、この森林の野鳥や植物については滅法詳しい。かつて自衛隊幹部だった池見は几帳面な性格である。また世話好きでもあり、木戸は池見に教えてもらった情報に何度も助けられてきた。
目指す森林に駆けつけた木戸は、運よく、ばったり出会った池見にルリビタキの撮影場所を聞く。池見は困った顔をして、個人宅の庭ゆえ、先方に迷惑をかけるといけないので、教えられないと言う。食い下がったが、効果なし。これ以上粘っても無駄と判断した木戸は、もういいですと言い捨て、立ち去った。
こうなったら、意地でも、森林に接した個人宅を探し出すしかないと、虱潰しに歩き回る。森林内にぽつんと建っている住宅近くに来た時、高木に止まろうとする中型の鳥に気がついた。慌ててデジカメを構えるが、素早く飛び移るため、撮影に失敗。ふと見ると、10mほど離れた所で池見もカメラを構えているではないか。
近づいてきた池見は、シロハラです、と言う。先ほどのことがあるから、返事をせずに歩き出した木戸に、池見が思いがけないことを言う。このSさん宅が青い鳥を撮影した場所だというのだ。木戸との長年の友好関係を修復しようとしたのだろうか。
礼を述べ、池見と別れた木戸は、それから2時間近く、Sさん宅を中心に歩き回ったが、ルリビタキには出会えない。簡単に見つかるようなら、幸せの青い鳥とは呼ばれないだろう。
うちには青い鳥がいるからいいかと、かなり遅くなったが、昼食の支度をして食べずに待っている老妻の顔を思い浮かべながら、木戸は家路を急いだ。