榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

森鴎外という稀有な人物が、多面的かつ立体的に浮かび上がってくる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2855)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年2月9日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2855)

オオバンとバン(写真1)、バン(2、3)、オカヨシガモの雄(写真4、5)、ヒドリガモの雄と雌(写真6、7)、ダイサギ(写真8)、アオサギ(写真9)をカメラに収めました。シナマンサク(写真10~12)、シナマンサクの園芸品種・アカマンサク(写真13~15)が咲いています。カワヅザクラ(写真16)が咲き始めました。因みに、本日の歩数は14,791でした。

閑話休題、『よみがえる森鴎外』(毎日新聞学芸部編、文京区立森鴎外記念館協力、毎日新聞出版)で、とりわけ興味深いのは、●伊藤比呂美の「女性を理解し励ます」、●林望の「史伝ものの文体」、●森まゆみの「文語体の古雅に酔う」、●北村薫の「海外の短編小説の翻訳」、●黒川創の「『衛生学』の二面性」、●永井愛の「『大逆事件』めぐる矛盾」――の6篇です。

●伊藤比呂美
「きれいな女もいるが、そうでもない女もいる。顔の美醜は女たちの(人間としての)価値を左右しない。あの時代、女の側に立って女を見ていたのが、このエラそうに髭をはやしたオヤジ顔の鴎外だった。この意外な事実をあらゆる人に知ってもらいたいと思っています」。

●林望
「三島由紀夫は『文章読本』のなかで、鴎外の『寒山拾得』から『閭は小女を呼んで、汲立の水を鉢に入れて来いと命じた。水が来た。』を例に引いて、こう述べている。『私がなかんづく感心するのが、<水が来た>といふ一句であります。この<水が来た>といふ一句は、全く漢文と同じ手法で<水来ル>といふやうな表現と同じことである。しかし鴎外の文章のほんたうの味はかういふところにある・・・』。『寒山拾得』に限らない。・・・こうした、ぶっきら棒で勁直な表現は、漢文で日記を書いていたような学識の主鴎外としては、自然に発想せられたものであろう」。

●森まゆみ
「なぜ、鴎外はこの小説(『即興詩人』)を9年、倦むことなく訳せたのか。それはドイツ時代の彼の舞姫の恋人と、小説の歌姫アヌンチャタのイメージが重なっていたからではないか。希臘(ギリシャ)の瓶を抜け出でて文机の螺鈿の上を舞ふ女かな。鴎外は再びヨーロッパを我が足で踏むことが叶わないと知っていただろう。そして愛しのエリスを夜の翻訳の仄暗い光の向こうに見た」。

●北村薫
「森鴎外は、海外短編小説の紹介者として、暗夜に灯火で道を示すような大きな仕事をしました。太宰治は『女の決闘』を、『たとえば、ここに、鴎外の全集があります』と書き始めます。手にしているのは、翻訳の巻です。そして、宝箱の中を見せるように、鴎外訳の書き出しを並べます。綺羅星のごとくとは、まさにこのこと。ずらりと引きたい誘惑にかられます。しかし、枚数が許さない。・・・続けて太宰はいいます。『まだ読まぬ人は、大急ぎで本屋に駈けつけ買うがよい、一度読んだ人は、二度読むがよい、買うのがいやなら、借りるがよい』。こうやって、小説についての小説『女の決闘』が始まるのです」。早速、『女の決闘』を読まねば!

●黒川創
「私生活でも、鴎外は、最初の結婚相手を離縁してから、二度目の結婚までの十年余り、自邸近くに『隠し妻』を置いていた。だが、ドイツ留学中の『エリス』との交際と同様、この種の行動について、彼は日記にさえ痕跡を残していない。子煩悩な良き家庭人としての鴎外の姿に、反面、『女を機械視』する彼の傾向が隠されていたのは、確かである。だが、彼は、人知れぬ悔恨を胸中に抱きつづけた人物でもあったのかもしれない」。

●永井愛
「(大逆事件が起こった)時期に書かれた二つの小説から、その心境が窺える。一つは『沈黙の塔』という寓意的な短篇。・・・言論、思想を弾圧する側への強い批判が鮮明にされている。あの時代によくぞと思うが、平出の影響もあったのではないか。司法を信じて弁護の想を練る彼への共感が、司法を歪める国への強い憤りとなって、鴎外のペンを奮い立たせたのかもしれない。いずれにしろ、山県(有朋)らがこの作品を問題にしなかったはずはない。・・・被告として獄中にいた幸徳秋水は、これらの作品(『沈黙の塔』と『食堂』)を読み、『人間と社会とを広く深く知って居られる』と平出への手紙で賞賛した。二つの頭脳を生きながら、なお改革者であろうと苦悶した鴎外の文学は、死を前にした幸徳の胸に響いたのだ」。

森鴎外という稀有な人物が、多面的かつ立体的に浮かび上がってくる一冊です。