榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

遺伝学が勃興・成長し、DNAを基盤とする分子遺伝学へと発展し、現在に至る歴史がドラマティックに描かれている・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2865)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年2月19日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2865)

ハクセキレイ(写真1、2)、ヒヨドリ(写真3、4)、ツグミ(写真5)、ハシブトガラス(写真6、7)、アオサギとダイサギとコガモとハシビロガモ(?)(写真8)、アオサギとダイサギ(写真9)、ハボタン(写真10)、落花したツバキ(写真11)をカメラに収めました。厚く積もった落葉はクッションのように弾力があります(写真12)。

閑話休題、『物語 遺伝学の歴史――メンデルからDNA、ゲノム編集まで』(平野博之著、中公新書)では、遺伝学が勃興・成長し、DNAを基盤とする分子遺伝学へと発展し、現在に至る歴史がドラマティックに描かれています。

本書の前半では、メンデル、モーガン、マクリントック、ビードルの4人の遺伝学の巨人の足跡にスポットライトが当てられています。

後半では、遺伝子本体であるDNAの探究、分子遺伝学の誕生・隆盛から現代遺伝学の最先端技術であるゲノム編集までの歴史が辿られています。

個人的に、とりわけ興味深いのは、「DNAの構造解明をめぐって」の件(くだり)です。「ノーベル賞受賞から6年後に、ワトソンによる『二重らせん』という本が出版され、多くの物議をかもすことになった。・・・若き日のワトソンの眼から、登場人物が多少偏見をもって描かれていた。・・・この本で、『悪役』にされてしまったのが、すでに他界していたフランクリンである。フランクリンは、『上司』であるウィルキンズと不仲な強情な女性で、ウィルキンズがうまく研究を進められないのは彼女のせいであるように描かれている。しかし、この本で描かれている二人の関係は正しくなく、フランクリンは独り立ちした研究者として、ランドルに採用されたのである。・・・ワトソンとクリックはDNAの分子モデルを作製する際に、クリックの友人であるウィルキンズとの会話、ランドルの研究チームの非公式な発表会への同席、ウィルキンズを通して見せられたフランクリンのB型DNAの鮮明なX線回析像などから、DNAのX線解析結果の情報を得ている。また、研究助成機関へのフランクリンの報告書(部外秘扱い)を、その助成の審査委員の一人であるペルツを通じて見ることができた。つまり、ワトソンとクリックがモデル作りに用いたデータは、必ずしも、一般に公表された情報ではない。また、これらの情報を参考にしたことは、ワトソンとクリックの論文のどこにも記述が見あたらない。DNAの立体構造の解明は20世紀の最大の発見の一つであり、ワトソンとクリックの明解な論文は歴史に残る偉業であることは間違いない。しかし、この世紀の発見の経緯は、研究倫理面から考えると多少疑問が残るところがある」。多少疑問が残るどころか、ワトソンとクリックは許されざる犯罪を行ったと、私は考えています。

ワトソンの『二重らせん』だけでなく、クリックの『熱き探求の日々』、ウィルキンズの『二重らせん 第三の男』、アン・セイヤーの『ロザリンド・フランクリンとDNA』、ブレンダ・マドックスの『ダークレディと呼ばれて』にも言及されています。私はこれらの本を全て読んだが、いずれも一読の価値があります。