榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は、世界で初めての若者視線で書かれた若者小説だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2891)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年3月17日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2891)

カタクリ(写真1~3)、セイヨウシャクナゲ(写真4、5)、ヨシノツツジ(ツツジとシャクナゲの交配種。写真6~8)、トサミズキ(写真9、10)が咲いています。スギナの胞子茎であるツクシ(写真11、12)が林立しています。我が家の庭師(女房)から、ヒメリュウキンカ(写真13)が咲いているわよ、との報告あり。

閑話休題、『翻訳はめぐる』(金原瑞人著、春陽堂書店)で、個人的に興味深いのは、●ルビという発明、●道具は作品を制限するか解放するか、●J・D・サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』――の3つです。

●ルビという発明
「日本語には(ルビという)こんなに便利なものがあるんだから、しっかり使ってほしい。・・・『ルビ』という道具は他言語にはないような気がする。・・・考えてみれば、ルビというのは3種類の文字を使う日本語独特のものなのだろう。便利なのは間違いない。・・・そのうえ、日本語には両ルビというものさえある。文の左右にルビを振る形だ」。

●道具は作品を制限するか解放するか
「ワープロ、パソコン、スマホの普及は、文章を書くことを容易にし、多くの人々に書くことを身近なものにし、文章の質を向上させたといっていい。・・・老いも若きも気軽に、手軽に、上手に文章を書けるようになった」。

●『キャッチャー・イン・ザ・ライ』
「この作品を読んだことのない人でも、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(以下『キャッチャー』)が戦後アメリカを代表する青春小説だということくらいは知っていると思う。しかし、これが世界で初めての若者視線で書かれた若者小説だということを知っている人は少ない。そもそも、この作品が最初に出版された1950年代のアメリカで、初めて『若者』が誕生したのだ」。

「ここで強調したいのは、サリンジャーにとって。若者視点で若者言葉を使って書くということがいかに難しかったかだ。・・・なぜなら、前例がなかったからだ。・・・サリンジャーの場合、さらに短編作家としての資質が邪魔になったのも想像に難くない。・・・しかし、この作品は当時の若い人々にはしっかり届いた。そしてそれを読んだ若者がやがて作家となって若者視線の若者小説を書くようになり、やがて70年代後半、ヤングアダルトというジャンルが社会的に、また、出版界でも図書館でも認知されるようになる」。

「『キャッチャー』はある意味、戦争小説なのだということを。10歳のときに死んだ弟のアリーを忘れられない(主人公の)ホールデンは、戦争で死んだ友人たちを忘れられないサリンジャーに重なるのかもしれないということを。そしてなにより、これは、やがて戦争で死ぬことになる少年(=ホールデン)を描いた作品なのだということを」金原瑞人は鋭く指摘しているのです。