榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

フーシェの陰謀情念、タレーランの移り気情念、ナポレオンの熱狂情念の戦いの勝者は・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2992)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年6月26日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2992)

セイヨウキョウチクトウ(写真1)、ムクゲ(写真2~4)、アジサイ(写真5)、ヤブカンゾウ(写真6)、テッポウユリ(写真7)、ヘメロカリス(写真8~10)が咲いています。カルガモの親子(写真11~13)をカメラに収めました。

閑話休題、『ナポレオン フーシェ タレーラン――情念戦争1789~1815』(鹿島茂著、講談社学術文庫)は、ジョゼフ・フーシェ、シャルル=モーリス・ド・タレーラン・ペリゴール、ナポレオン・ボナパルトの関係を情念戦争という視点から考察しています。

「この時代(1789年のフランス大革命から1815年のワーテルローの会戦にかけての時代)においては、陰謀情念の持ち主は思いきり陰謀を、移り気情念に憑かれた人物は好きなだけ移り気を、そして熱狂好きな人間は心ゆくまで熱狂を、それぞれ行い、しかも、それによって歴史に活気を与え、歴史を動かすことができた。陰謀情念と移り気情念と熱狂情念が不発に終わることなく、完遂できたのである」。

「では、この情念戦争における、それぞれの代表者はだれかといえば、それはあらためて指摘するまでもない。陰謀情念は警察大臣ジョゼフ・フーシェ。移り気情念は外務大臣シャルル=モーリス・ド・タレーラン・ペリゴール。熱狂情念はナポレオン・ボナパルトである」。

「フーシェの小賢しくもみみっちい陰謀の中に、あるいはタレーランの無節操きわまりのない変節の中に、またナポレオンの後先顧みない熱狂の中に、21世紀を生き抜く知恵を見いだすことができるのはないだろうか?」。

「天性の陰謀家であるフーシェは、もし自分が支配者になったりしたら、陰謀情念の使い道がなくなることをわきまえている。移り気情念のタレーランも、自分が主人になってしまったら、仕えるべき主人を次々と変えて変節することができなくなるのを恐れている。ようするに、二人とも大将型ではなく、むしろ参謀型、ひとことでいえば第一流の二流人間なのである」。

興味深い記述が、随所に鏤められています。
●ナポレオンの妻・ジョゼフィーヌは、「どうにも魅力の感じられなかったチビの亭主」を嫌い、愛人をつくっていた。
●フーシェは、ジョゼフィーヌの「浪費癖につけこんで」、「ナポレオンに関する情報を手に入れるため」の「もっとも優秀なスパイに仕立てた」。
●「絶世の美人」、ポーランドのヴャレウスキー伯爵の若妻マリア・ヴァレウスカ(写真16)は「ポーランドにおけるナポレオンの現地妻となり、9ヵ月後にナポレオンそっくりの男子を出産した」。「マリアは、ジョゼフィーヌ以外では、ナポレオンが心から愛した唯一の女性だったのである」。
●エルバ島に流刑となったナポレオンの元をマリアと「その息子のアレクサンドル(ナポレオンとの間の庶子)」が訪れたが、「たった1泊しただけでエルバ島を離れた。マリア・ヴァレウスカの訪問が(妻)マリー・ルイーズに知られることをナポレオンが極端に恐れたからである」。
●「フーシェは醜い妻を心の底から愛し、女色には一生無縁だった」。
●「数年前に最愛の妻を失ったフーシェは、この年、大貴族カステラーヌ伯爵令嬢に激しく恋して、再婚をルイ十八世に認めてもらおうと考えていたのである。・・・8月1日、無神論者フーシェはカステラーヌ伯爵令嬢と華燭の典を挙げた」。
●「ナポレオンはおのれの熱狂情念を、さながらサイキックウォーズのように、タレーランの移り気情念と、フーシェの陰謀情念と真っ向からぶつけて戦い、一見、彼らを排除したように見えながら、その実、見事にしてやられたのである。しかし、後々の影響を考えれば、この情念戦争に最終的決着がついたとはとうてい、いいがたい。ナポレオンの熱狂情念は後に多くの若者たちを、たとえば、ユゴー、デュマ、バルザックのようなポスト・ナポレオンの世代を別種の情念戦争へと駆りたてることによって、幾度となく蘇ったのだから」。