榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

もし、不美人に生まれついたら、どうしますか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3006)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年7月11日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3006)

ヒマワリ(写真1)、ヤブミョウガ(写真2。3)が咲いています。トウモロコシが雄花(写真4)、雌花と実(写真5)を付けています。キュウリが花と実(写真6)を付けています。ホオズキが実(写真7)を付けています。

閑話休題、連作集『説教師カニバットと百人の危ない美女』(笙野頼子著、河出書房新社)に収められている『説教師カニバット』と『百人の危ない美女』は、41歳の小説家・八百木千本が、説教師カニバットに洗脳された100人の結婚願望の強い女性たちから次から次へと送られてくる、えげつないファクシミリに悩まされる物語です。

「四十になったのに、子供も産まず、恋愛もせず海外旅行も歌舞伎見物もしてなかった。にもかかわらず『満ちたりていた』。夫の不倫に子供の心配、離婚の危機もリストラの恐怖も私にはなく、中年に達して遂に姑と同居しなくてはならなくなった嫁の、苦悶や懊悩もなかったのだ。無論その一方、姑の介護を最後までし抜いたという誇りや虚脱感とも、亭主からテンダイヤモンドを買って貰えなかった憤怒及び、ついに買った一戸建住宅における家族団欒の喜びだのとも、無縁だった。ワープロと机と猫、働ける体、信用出来る仕事先ほんの少し。二年先までは詰まっている執筆予定。他には病気休養した時のための蓄えがほんの少々と洋服一式。『失う物が少ない』故に悩みは少なかった」。

「私には別の人生などという結構なものがなかったのだ。誘惑がなく、他の選択もなく、要するに私は生まれたままであった。揺るがしようもない程、確たる、ブスだったのだ。それだけである。男は側に来ず、縁談はない。恋愛以前にもう、社会から捨てられていた。千古の昔からただそこに聳える巖のように、ひたすら変わらないのはこの容貌」。

「『ファックス攻撃』が単なる法律上の問題ではなくまさに業務妨害だという事を体感で納得しているのである。無論、相手だって納得しているとは思うのだが・・・ところで、この、『威力業務妨害容疑行為』の大好きな彼女ら、それは。巣鴨こばと会残党、またの名をカニバット親衛隊。かつては一万人を越えた、結婚願望ばかりが発達した異端の女性集団。が、今ではその数もたった百人、ああ、またファクシミリが鳴る・・・。私は走っていってファクシミリを千切る。千切っても千切っても出てくるお化けの紙」。

「私は小説家八百木千本、決して笙野頼子ではない、純文学作家」と、わざわざ断りを述べています。

「絶叫腐乱臭的不器量・反人間的毒ガス的容貌作家八百木千本様  巣鴨こばと会残党、会員No.19   八百木様、なんという哀れなお気の毒な方、神に見放され絶対に救いもなく、反省する気持ちもなく、世界の誰よりも心の凍り付いた・・・生きてこの世にあって、それほどまでの苦しみをなめ、なおかつ改心しないあなたに、私は殆ど絶望しています。でも、あなたはもう既にそれ故の罰を受けておられるのですね。ああ、浅ましい凍結地獄の中、鬼気迫るお気の毒なそのハイミス暮らし。ご自分の醜い容貌を自己欺瞞で肯定的に見よう見ようとして、見苦しく突っ張り、分別をなくし、敵を作り、そして狂気に落ちていく、呆れ果てた人生。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」。この長~い「・・・・・・」は、この後も言いたい放題の悪口雑言が延々と続くことを示しています。

八本木も、どうしてどうして負けてはいません。「『四十過ぎてもブスな女は死刑台送り』、『ブスは生まれてすみませんと太宰のように言う資格もない、それよりもこんな顔面に光を反射してすみませんと、つまり汚くてすみませんとまずそれを見て苦しむ人の目に対して謝るべき』、『ブスは下を向け、それで他人と視線を合わせなくて性格が暗いと非難されたら、すいません顔が暗いと性格もそうなるんですと素直に謝れ』、『でもそこまで素直なブスも結局は悪、素直なブスそれはうざったくて却ってイライラするブス』、『そして親切なブスそれは暑苦しくて絡みつく感じの悪いブス』、『ブスの我慢それはただの当てつけ』、『ブスの謙虚、それはただの打算』、『ブスは死んでもブス、どんな他の付加価値を持っていても世間は許さない』、『政敵やライバルを蹴落としたい男は、敵がブスと寝たと言いふらすのが得策』、『無職ローン地獄でパソコンも出来ず腸が悪くて大道歩きながら、一歩毎に赤面しておならしてるような無力な男でさえ、まったくおならをしないで堂々と道を歩いている論理的で明るいシステムエンジニア歴十年のブスを見れば、ブス、と罵る』、・・・・・・・・・・」。「女性読者の皆様、つまりこれが千本の力の限り行ったシビアな負の現状認識、現制度からのブス差別に対する怒りを晴らす方法だったのです」と、ご丁寧に、わざわざ断っています。

本書を読み終えて、不美人に生まれついたことが、その人に大きな影響を及ぼすケースがあるということを知りました。自分の顔を思い浮かべながら、女性に生まれなくてよかったというのが、私の本音です。