榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

保守の実力者「ハマのドン」がカジノ阻止で最高権力者と闘った記録・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3050)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年8月24日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3050)

キノコをカメラに収めました。

閑話休題、『ハマのドン――横浜カジノ阻止をめぐる闘いの記録』(松原文枝著、集英社新書)を読み終えて、我が国にこんなに肝っ玉の据わった人物がいることを知り、嬉しくなりました。

政権中枢が推し進める横浜市へのカジノ誘致に対し、これを阻止すべく人生最後の闘いに打って出た91歳の「ハマのドン」こと藤木幸夫が、その人物です。

「国政選挙で勝てば何をやってもいい、そんな風潮になったのは、安倍政権になってからだ。安倍ー菅政権と自民党の一強時代が10年近く続き、数さえ押さえれば自分たちが民意だとすり替えて、国民の意見を重視しない。・・・カジノもその典型例の一つだった。法律が通った以上、あとは、各自治体が誘致を申請して国の認可を待つだけだ」。

「人口約370万人の大都市横浜市は、多くのカジノ事業者が狙っていた。カジノ推進をしてきた菅義偉官房長官のお膝元でもある。その中で、保守の有力者、『ハマのドン』こと藤木幸夫さんが菅官房長官、後の総理大臣に、真っ向から反旗を翻した。忖度がはびこる中で、普通ではあり得ない事態が起きたのだ。・・・この勝負、一体どうなるのか。いくら実力者とは言え、相手は最高権力者だ。だが、この勝負には大きな意味がある。負けても闘う姿勢は多くの人に勇気を与える。・・・横浜のカジノ誘致断念は、保守かリベラルかというイデオロギーとは関係なく、市民の力が融合し、市民の手によって国策をなぎ倒してブレーキをかけた、最近では極めて特異な事例だ。本来、特異であってはならないのだが、政治が独善に走り、政治への諦めや無関心が広がる中で、国民の手に政治を取り戻す一つの示唆がある」。

<カジノの依存症で街が潰れているところが(海外には)たくさんある。よその国の人が日本を使ってお金を儲けて、そのおこぼれにあずかろうなんて、横浜はそんなさもしいところじゃない。おこぼれの金はいりません>。

<カジノは要するに博打だ。博打でおけらになり、家庭が崩壊し、夫婦別れが起き、親子別れが起きる>。

<主役は横浜市民だ。俺は脇役>。

<菅さんは安倍さんの「腰ぎんちゃく」でしょ。安倍さんはトランプさんの腰ぎんちゃくでしょ>。

<(安倍政権は)言論統制まではいかないけれども、一言言わなきゃいけないのに、言わねぇなと。法案はばんばん通っちゃうしね。法案通すんだか、集団強盗やってんだか、分かんないような法案の通し方してるしね>。

<10年、20年後の横浜がどうなってるかってことなんだ。横浜の将来は、今ここにいる皆さんが握ってるんだよ。それがね、国の言いなりじゃ困るでしょ>。

横浜市長選の応援演説で、<私に言わせるとね、悪いけど、私個人から見ると私と菅の喧嘩なんですよ。私と菅の喧嘩なんです。皆さん、この喧嘩で私は負けたくないから助けてください。よろしくお願いいたします>。

<庶民の力がこんだけ強いんだという証を、この選挙でみんな分かったからね。皆が力を合わせればできちゃうんだ。菅も今日あたり辞めるんじゃないの。辞めなきゃしょうがないだろこれ。本当に>。菅が首相退任の意向を示したのは、この横浜市長選投開票日から僅か10日余りのことでした。

カジノ解禁の流れができつつある大阪と、市民の力でカジノを阻止した横浜――どちらが真の勝者かは、今後の歴史が明らかにしてくれることでしょう。