榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

助監督・黒澤明が監督・山本嘉次郎から学んだこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3222)】

【月に3冊以上は本を読む読書好きが集う会 2024年2月11日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3222)

30羽ほどのアトリの群れに出くわしました。アトリの雄(写真1)、雌(写真2)、ジョウビタキの雌(写真3、4)、シメ(写真5、6)、ヒヨドリ(写真7、8)をカメラに収めました。カワヅザクラ(写真9~12)が咲き始めました。因みに、本日の歩数は11,936でした。

閑話休題、『高校生のための批評入門』(梅田卓夫・清水良典・服部左右一・松川由博編、ちくま学芸文庫)には、51篇の文例が収められています。

「批評とは、世界と自分をより正確に認識しようとする心のはたらきであり、みなさんの内部で日々『生き方をみちびく力』としてはたらいているものです。この本は、そのような力として批評が生まれる現場へみなさんを案内することを意図して編集されました。だからこの本は、論文の読み方や書き方などの当面の技術を教えるものではありません。『批評が生まれる現場』に即して、みなさん自身のものの見方や考え方を訓練する、いわば『生き方のワークブック』なのです」。

とりわけ興味深いのは、●「断層」(中上健次)、●「長い話」(黒澤明)、●「掟」(フランツ・カフカ)――の3篇です。

●『十八歳、海へ』の「断層」

こうコメントされています。「世の中で最も身近な存在と思っていた親や兄弟との間にいつしか溝が生まれ、亀裂が深まってゆく時間がある。家族という共同体の中で、『個』を自覚するからである。いつの時代であっても、青年はそれを避けて通ることはできない」。

●『蝦蟇の油』の「長い話」

「世界で最も尊敬されている日本人の一人『クロサワ』監督にも、新米の修業時代があった。彼を教え鍛えた有名無名の技術者や職人たちの仕事ぶりが脈々と受け継がれて、日本映画の黄金時代は花開いたのだ」と、コメントされています。

「さて、私がどうやらシナリオを書けるようになると、山さんは、私に編集をやれ、と言った。監督になるためには、編集ができなければならないことは、私にも解っていた。編集は、映画における画竜点睛の作業だ。撮影したフィルムに命を吹き込む仕事だ。・・・山さんは、編集の腕も一流で、自分の作品の編集は、自分でさっさとやってのけて、そのエディターは、それを見ていて、ただ、フィルムを継ぐだけだったが、助監督(の私)が自分の仕事に手を出すのは、勘弁ならなかったのだろう。・・・編集について、私が山さんから学んだことは山ほどあるが、その中で最も大切だと思ったことは、編集の時、自分の仕事を客観的に眺められる能力が必要だ、ということだ。山さんは、苦労して撮影した自分のフィルムを、まるでマゾヒストのように切った。・・・切れる! 切ろう! 切る! 編集者の山さんは、まるで殺人狂だった。切るくらいなら、撮らなければよいのに、と思ったこともある。私も苦労したフィルムだから、切られるのは辛い。しかし、監督が苦労しようが、助監督が苦労しようが、キャメラマンやライトマンが苦労しようが、そんなことは、映画の観客の知ったことではない。要は、余計なところのない、充実したものを見せることだ。撮影する時は、もちろん、必要だと思うから撮影する。しかし、撮影してみると、撮影する必要がなかったと気がつくことも多い。いらないものは、いらないのである。ところが、人間、苦労に正比例して、価値判断をしたがる。映画の編集には、これが一番禁物である。映画は時間の芸術、と言われているが、無用な時間は無用である。編集について、山さんに学んだことの中で、これが最も大きい教訓であった」。因みに、この「山さん」とは、映画監督の山本嘉次郎のことです。

●『ある流刑地の話』の「掟」

この「掟」を読んで驚きました。カフカの長篇『』と全く同じモチーフで書かれているではありませんか。『城』は難解だと途中で投げ出した人には、この3ページの「掟」を読むことをお勧めします。カフカが『城』で言いたかったことが、ぎゅっと凝縮しているからです。