榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

豊﨑由美の徹底した忖度のなさに拍手喝采!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3279)】

【読書クラブ 本好きですか? 2024年4月6日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3279)

東京・三鷹~杉並の神田川沿いを巡る散歩会に参加し、満開のサクラを堪能することができました。ソメイヨシノ(写真1~9)、ツバキ(写真7)、クルメツツジ(キリシマツツジ。写真8)、シナレンギョウ(写真9、10)、オオシマザクラ(写真11、12)、ハナモモ(写真13、14)、ハナカイドウ(写真15、16)、ゲッケイジュ(ローレル。写真17)の雄花、カロライナジャスミン(写真18、19)が咲いています。

閑話休題、『時評書評――忖度なしのブックガイド』(豊﨑由美著、教育評論社)は、故あって、時評と絡めた書評になっています。副題どおり忖度のなさが徹底しており、痛快至極な一冊です。

とりわけ興味深いのは、●松本人志発言、杉田水脈ツイートを『脂肪の塊』で考える、●能力を超えた職務を与えられた愚者・森喜朗さんを憐れむ、●昭和のがさつなおじさんにNO!を突きつける――の3つです。

●松本人志発言、杉田水脈ツイートを『脂肪の塊』で考える

「松本人志と杉田水脈の発言は、モーパッサン作品の中のロワゾーの下品な振る舞いそっくりです。わたしは、『脂肪の塊』に望まぬセックスを強要してまで自分の利益を守ろうとする、思いやりと想像力に欠けた世界はイヤです。誰かの犠牲の上に成り立つ幸福は醜悪です」。

松本人志の発言とは、「水商売のホステスさんが仕事休んだからといって、普段のホステスさんがもらっている給料を我々の税金で、俺はごめん、払いたくはないわ」を指しており、杉田水脈の発言とは、「これを機に外国籍の方に対する給付等はしっかり見直した方がいいと思います。本来国民を保護するのは国籍がある国家の責任。日本に居る外国籍の方を保護する責任はそれぞれの母国にあります」を指しています。また、モーパッサン作品とは『脂肪の塊』で、登場人物のロワゾーの言葉とは、このようなものです。「あの『売女』はわれわれをいつまでこんな場所に足止めさせる気だろう」。「あのあばずれの手足をしばりあげ、敵の士官に引きわたしてしまおう」。

●能力を超えた職務を与えられた愚者・森喜朗さんを憐れむ

「もはや怒りというよりは、身の丈を超えた職務を与えられたせいで歴史に残る愚者として記憶に留められることになりそうな、この老人を哀れむ気持ちのほうが大きいトヨザキなのでした」。

「(こういう)森(東京オリンピック・パラリンピック組織委員会)会長にお勧めしたい小説が、宮内悠介の『あとは野となれ大和撫子』なんです。・・・出自もさまざまなら、後宮にやってきた理由もそれぞれに異なる小娘たちが、背筋をまっすぐに未来を見つめ、最善を尽くして『あとは野となれ』と呟く。83歳のおじいさん(=森)、この小説の中に出てくる女性もまた空気は読まないし、偉い人に忖度したりしません。納得がいくまで話し合い、時に烈しく言い争います。でも、それはあなたが言う『競争意識が強い』からではありません。(登場人物の)アイシャたちは歴史が浅い祖国の危急存亡の秋(とき)を乗り切り、未来の同胞たちに手渡すために話し合い、無謀とも思える行動に出るんです」。

●昭和のがさつなおじさんにNO!を突きつける

「安倍晋三しかり、麻生太郎財務大臣しかり、二階俊博幹事長しかり、菅義偉総理大臣しかりで、自民党の偉いおじさんたちは、どうして失言や失態を避けることができないのでしょうか。・・・今回わたしが注目したいのは安倍発言の中の『反日的』というひと言なのです。安倍がこの言葉で狙っているのは、『オリンピック開催に反対しているような論者は反日なのだ』というレッテル貼りなのではないでしょうか」。

豊﨑は、松田青子の作品集『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』に収録されている『物語』という一篇を取り上げています。「女性の体や制服に向けられる性的な視線。女の子に強要される従順さや無邪気さ。何か事が起きれば、女性にそうさせている男性にではなく女性に対して向けられる非難。女性が大きな声で抗議すれば、『感情的になるなよ』と小バカにする風潮。そうした理不尽に、想像力で立ち向かっている作家が松田青子です」。

やはり、豊﨑は大物だわ。