榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

無実の林眞須美が、和歌山カレー事件の犯人として死刑囚にされてしまった3つの理由・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3414)】

【読書の森 2024年8月18日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3414)

書斎で調べものをして戻ってきたら、撮影助手(女房)が庭に来たキジバトを私のデジカメでちゃっかり撮影していました。

閑話休題、『和歌山カレー事件――獄中からの手紙』(林眞須美・林健治・篠田博之他著、創出版)によって、動機なし、自白なし、物証なしの林眞須美の無実を確信した私は、『「毒婦」――和歌山カレー事件20年目の真実』(田中ひかる著、ビジネス社)のおかげで、無実の眞須美が死刑囚とされてしまった3つの理由に気づきました。

第1は、事件発生当時、近畿6府県警の中で最弱と位置づけられていた和歌山県警が、何としてもカレー事件の犯人を挙げねばならない状況に追い込まれていたため、予断に基づき、度を越した強引な捜査を行ったこと。

第2は、厳しい取り調べを受けても頑として自白しない眞須美の態度が、担当刑事や検事を本気で怒らせてしまったこと。

第3は、和歌山市園部の大きな家に引っ越してきて、仕事もせず、保険金詐欺で得た金で贅沢な暮らしをしている林健治(53歳)・眞須美(37歳)夫婦が近隣住民から毛嫌いされていたこと。

健治は自宅敷地内に「麻雀部屋」を建て、仲間を呼んでは一晩中騒々しく賭け麻雀に耽り、眞須美は日常的に家の裏を流れる用水路にゴミを投棄していました。自分たちは不法駐車をしておきながら、他人が路上駐車すると、脇を通れるにも拘らず、わざとクラクションを鳴らすなど、近所迷惑の限りを尽くしていました。また、林家が引っ越してくる前、その家には暴力団幹部が住んでいたことから、住民たちは健治も暴力団関係者と思い込み、苦情を言いたくても言えなかったのです。

人が社会で生きていく上で、「普段の行い」が大切だということは分かります。そして、保険金詐欺は歴とした犯罪です。健治自身が、実際に詐取した保険金の額は8億円に上ると語っています。しかし、だからといって、「合理的な疑いを差し挟む余地」だらけの状況証拠だけで、眞須美がカレー事件の犯人として死刑を執行されていいわけがありません。それでは、日本は、もはや法治国家とは言えなくなってしまいます。

マスコミ報道の過熱により、林夫婦の心証は全国的に「真っ黒」となります。そして、マスコミ関係者に放水する眞須美の写真が決定打となりました。「報道陣やその後ろに控える『世間』に対し、ホースで水を浴びせたときから、眞須美の運命はゆっくりと死刑に向かって動き出していたのかもしれない」。

2017年に眞須美が獄中から長男に宛てた手紙の一節、<「法の正義」「科学の正義」のもと 一日も早く、早く、再審無罪としてもらい 死刑台より生還したく 毎日毎日、すごしています>が、心に沁みます。

それでは、カレーにヒ素を入れた真犯人は誰なのか。本書を読み終わった時、私は犯人の目星がついたが、胸の底にしまっておくことにします。