全て自分の責任、だから、怒らないでしがらみを突破する・・・【MRのための読書論(119)】
怒らない経営
私は怒りっぽい性格だったので、仕事やプライヴェットでとんでもない事態を招いてしまった経験が何度もある。近年は大分円くなったが、こういう私からすると、「怒らない経営」というものが実際にあり得るのか半信半疑であった。
パチンコ、株式投資
『怒らない経営――しがらみを超え、地元を盛り上げる!』(大藪崇著、日経BP社)の著者・大藪崇というのは、何とも珍しい経歴の持ち主である。愛媛大の学生時代は、授業に出ずパチンコ三昧で1000万円稼いだというのだから驚く。卒業後は就職できずニートの日々を送るが、パチンコで稼いだ貯金が底を尽きそうになったため、インターネットによる株式投資を開始。4年半で元手の35万円を15億円に増やしたというのだ。
企業家へ
26歳で会社を立ち上げ、2年後に道後温泉の旅館「道後夢蔵」の経営に乗り出す。未熟な経営で従業員全員が退職するなどのピンチに遭遇するが、「一生懸命」をモットーに乗り越え、「旅行サイト『じゃらんネット』の『泊まって良かった宿ランキング中国・四国エリア』で1位を獲得。老舗の旅館が多数ある中、20代で素人だった私が始めた施設が高い評価を獲得するに至った。愛媛へのこだわりは間違っていない。それをテコにして地元を盛り上げられる、と確信した」。
続いて、リーズナブルな価格設定の宿泊施設「道後やや」、地元の野菜を有機栽培する自社農園「エイトワンファーム」、今治タオル専門店「伊織」、愛媛ミカンの加工品を扱う専門ブランド「10(テン)」、愛媛の伝統工芸品・砥部焼の新ブランド「白青」などを立ち上げ、成功させていく。
大藪の基本姿勢
大藪がこのように分野の異なる各事業で成功を収めることができたのはなぜか。企業家だけでなく、組織のさまざまなレヴェルのリーダーの参考になるヒントが、本書にはぎっしりと詰まっている。
「自分自身の経験から、人間はぎりぎりまで追い込まれると自分でも考えられなかった力を発揮することがある。そして自らの行動でカベを乗り越え結果を出すことで人間的にも大きく成長し、自分の使命、生きる意味に出会える可能性が高くなる。守られた環境ではどう転んでも自分の使命にはたどり着けない。これは声を大にして言いたいが、自分の使命に気づいている人生は幸せだと思う。同じ地方の経営者としてこうした思いを一人でも多くの人と共有し、志のある人といっしょに夢を見たい。この流れを日本中に広げたい」。
「結果が出なければ、何も残らない。だから、怒らないでしがらみも突破する」という考えが大藪の基底を成している。「うまくいくときも、そうでないときもすべて自分の責任だ。私はこれまでずっとそう意識してきた。結果が出なければ、何も残らないのだから、すべてを自分の責任としていかないとやり切れない。自分の責任という考えが体のすみずみまで染み込んでいる。そして、これまで取り組んできたすべてのことのベースになっている。だからこそ、うまくいかないことがあっても、怒ったりすることはない。そんなときは、あくまでも『自分が至らなかった』と受け止めることにしている。もともと子供のころから、性格的に怒ること自体がほとんどなく、いつでもそのときどきにすべきことに向かって、たんたんと取り組んできた」。
「社員に対して、私はもちろん怒ることはない。むしろ、感情的にならないで分かりやすく伝えることを心がけている。・・・『事業を通じて、愛する地元を盛り上げる』という視点だ。そのためには社員一人ひとりが明るく前向きな気持ちで業務に取り組まなければうまくいかない。私にとって大切なのは、社員が前向きに取り組む環境をつくることだ。私が怒ってばかりでは社員が萎縮し、事業を伸ばせなかっただろう」。
「明快な解はなくとも、進み続ければ道は開ける」との信念が大藪を支えてきたのだ。「大きな課題を解決するための明確な解はないかもしれない。だからといって、あきらめてはならない。何があっても人のせいにしたり、怒ったりしないで、進み続けることだ。地域の持っている力を信じ、そして生かしながらプラス思考で取り組んでいけば、道は開けてくる」。
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