『失われた時を求めて』を個人全訳中の高遠弘美のプルースト愛がぎゅっと詰まっている・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3466)】
届いたリクウェストの本たちを受け取りに図書館に行ったら、小さな展覧会が開かれていました。
閑話休題、5年かけて読了した『失われた時を求めて』(マルセル・プルースト著、鈴木道彦訳、集英社文庫、全13巻)は、私の一番の愛読書です。
『楽しみと日々――壺中天書架記』(高遠弘美著、法政大学出版局)には、『失われた時を求めて』を光文社古典新訳文庫で個人全訳中の高遠弘美のマルセル・プルースト愛がぎゅっと詰まっています。
●高遠が、最初のパリ滞在の折に、『失われた時を求めて』の「スワン家のほうへ」の初版(1913年)を思い切って購入した時の感激が綴られています。「迷わず買って、近くのカフェに座ってページを開くまで、動悸がしていたと思う。目は血走っていたのではなかろうか」。
●最近、数十年来探していたプルーストの処女作『楽しみと日々』の初版(自費出版、1896年)をカナダのインターネットサイトを通じて入手できた喜びが語られています。
●『失われた時を求めて』には、さまざまな引用が鏤められているとのこと。
●高遠は、『失われた時を求めて』に何度も登場する鴨料理で知られるパリのトゥール・ダルジャンを訪れています。私もかなり以前、パリのトゥール・ダルジャンで食事をしたことがあるが、プルースト行きつけのレストランとは、当時は知りませんでした。
●先行作品の特徴を生かしてそれを模倣したものをパスティーシュ(模作)というそうだが、プルーストは模作が好きで、『失われた時を求めて』の中にも登場させているとのこと(例えば、ゴンクール兄弟の『日記』の未発表部分)。
●プルーストは『失われた時を求めて』の「花咲く乙女たちのかげに」でゴンクール賞を受賞するが、その受賞直前に版元のガリマールに書いた手紙が残されています。<「花咲く乙女たちのかげに」は信じられないような偶然によって、「スワン家」の百倍も成功を収めています。この本は日本や中国のどんな机の上にも置かれることになると申し上げたら、以前ゴンクールの模作を書いたときに用いた自分の表現をそのまま繰り返すことになるでしょうか>。事実、日本ほど『失われた時を求めて』が何種類も翻訳されている国はないそうです。
●プルーストは『失われた時を求めて』の中に、日本の事物や日本語を登場させているとのこと(例えば、「ムスメ」)。
●プルーストは長年、喘息に悩まされたが、同病の私が長年、使用している予防薬のアドエア吸入があれば、プルーストも発作なしで執筆に集中できたことでしょうに。
●プルーストが寝室の壁全面をコルク張りにしたのは、隣で改修工事が始まり、睡眠と静けさを奪われ、ノイローゼ気味になったためとのこと。「やっと静かな環境を得たプルーストは一気に作品執筆に全神経を傾注することになる」。
●1905年に最愛の母親が他界したあと、プルーストはほとんど精神を病み、長期のサナトリウム生活を送ることになったとのこと。
●プルーストは『千一夜物語』を愛読していたとのこと。
●プルーストは何段階にもわたって推考、加筆、修正を行う作家だったとのこと。
著者の熱気に当てられ、書斎の書棚から『失われた時を求めて』を引っ張り出してきました。