榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

リヒャルト・ゾルゲは、部下の無線通信士に裏切られていた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3567)】

【読書の森 2025年1月10日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3567)

バラ ‘レッド・キャブテン’(写真1)、カネノナルキ(学名:クラッスラ・オヴァタ。写真2)が咲いています。

閑話休題、長年に亘りリヒャルト・ゾルゲ(1895~1944年)に関する書籍を読み漁ってきたが、近年解禁されたロシア側資料を踏まえた『ゾルゲ事件80年目の真実』(名越健郎著、文春新書)に驚かされたことが3つあります。

第1は、ゾルゲが部下の無線通信士マックス・クラウゼンに裏切られていたこと。そして、ゾルゲがその裏切りに最後まで気づいていなかったこと。

クラウゼンはモスクワの軍情報本部に無線で報告するようゾルゲから渡された電文を全部打電すべきなのに、3割ほどしか打電していなかったのです。このサボタージュの理由として、ゾルゲから渡される電文があまりにも多過ぎたこと、スパイ活動に嫌気が差していたこと、自分を軽く扱うゾルゲに反感を抱いていたこと――が挙げられています。

第2は、事件が発覚し逮捕され、死刑判決を下されたゾルゲだが、ソ連側が身柄交換に応じれば処刑が回避される可能性があったこと。

ゾルゲ自身もそれを望んでいたが、スターリンが捕虜を裏切り者と見做し、個人の運命には何の関心も示さなかったため実現しなかったのです。

第3は、ゾルゲの9歳年下の妻エカテリーナ(カーチャ)・マクシモワが、ゾルゲ逮捕から約1年後の1942年9月に秘密警察(NKVD)に逮捕され、1943年7月に死亡したが、彼女の逮捕はゾルゲ事件とは無関係だったこと。

逮捕理由は彼女自身がドイツのスパイと疑われたことでした。

個人的に嬉しいのは、カーチャの経歴が明らかにされていること、そして、彼女の写真が掲載されていることです。ロシア人の父とドイツ人の母の間に生まれたカーチャは一度結婚し夫と死別したこと、舞台女優を目指していたこと、列車で知り合ったゾルゲと結婚したこと、1933~35年結婚生活を送ったが、ゾルゲの海外長期出張のため一緒に暮らした期間は半年に満たなかったこと――が記されています。そして、ゾルゲがカーチャに送った十数通の手紙から、ゾルゲにとってカーチャが心の拠り所だったことが分かります。しかし、カーチャが死んだ時、ゾルゲは獄中にあり知る由もなかったのです。