あなたが「守るべき女性」でなく、「差し出されるべき女性」として指名されたら・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3650)】
一日、雨――。
閑話休題、『占領下の女性たち――日本と満洲の性暴力・性売買・「親密は交際」』(平井和子著、岩波書店)で、とりわけ胸が痛むのは、敗戦という共同体の危機に際して、男性リーダーたちがとった発想――女性を「守るべき女性」と「差し出すべき女性」に二分化し、後者を「性の防波堤」にして自らの安泰を図る――が満洲で展開された事実です。
ソ連軍の進撃と地元民の襲撃にあった満洲開拓団の女性たちは、ソ連兵の「女狩り」という性暴力の危険に曝され続けたのです。
女性への危害を最小限にするための「性の防波堤」とすべく、あるいは共同体が生き延びるために、居留地の日本人会や開拓団の幹部によってソ連側・中国側へ女性たちが差し出された事例が多数あったことが明らかにされています。
「差し出すべき女性」として指名されたのは、未婚女性や集団の周辺部に位置する女性たち(他の団の出身者)でした。その一方、ソ連兵に連れ去られようとする女性の身代わりにと「自ら」名乗り出た性売買者(「慰安婦」、芸娼妓、「水商売の女」、「その筋の女性」)に関する見聞記憶も多く記録されています。
その具体例の一つが、満蒙開拓団である岐阜県送出の黒川分村開拓団の事例です。現地中国人の襲来から団を守るために、占領軍であるソ連側と交渉し、その見返りに15人の未婚女性と4人の元娼妓を「性接待」に出すという苦渋の決断をしました。
黒川開拓団の例は特異なものではなく、ソ連側に強いられて、あるいは「交渉」して、類似の苦渋の選択をした開拓団は他にも多数ありました。
さらに、引揚船が日本に着いた途端、それまで、「ご苦労かけました。誠に済まなかった。終生ご恩は忘れません」と言ってきた引揚団の幹部が、犠牲となった女性たちを見向きもしなくなったという証言も収録されています。
戦争と女性について、深く考えさせられる重い一冊です。