榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

性犯罪の加害者家族の「生き地獄」とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3786)】

【読書の森 2025年8月4日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3786)

フヨウが咲いています。

閑話休題、『夫が痴漢で逮捕されました――性犯罪と「加害者家族」』(斉藤章佳著、朝日新書)のおかげで、いろいろなことを知ることができました。

●性犯罪には被害者やその家族がいる。一方の加害者にも家族がいる。それが加害者家族だ。
●加害者家族とは、事件を起こした本人の親、パートナー、子ども、きょうだいなどの血縁関係を指す。
●著者は、ソーシャルワーカーとして1000人を超える性犯罪の加害者家族に関わってきた。外出がままならなくなった人、不眠や食欲不振からうつ病になる人、処方薬が手放せなくなる人、「生き地獄です」と涙ながらに語る人・・・さまざまな加害者家族が置かれた苦境を目にしてきた。
●両親は夜逃げ、弟はうつ、姉は自死という加害者家族も。
●性犯罪の原因は「性欲」ではない。性加害は「誤ったストレス対処行動」である。すなわち、自分の弱さを認めず、他人を傷つけ、自らの優位性を確認し、自分よりも小さくて弱い対象を支配することで、その欲求を満たそうとするのだ。
●加害者が犯した行為への責任はあくまで当人が取るべきであり、家族にはその責任はない。しかし、家族の連帯責任を求める「世間」により、家族もまるで加害者と同じように扱われ、偏見や差別に苦しむ現状がある。加害者家族が再び自分の人生を取り戻していくためには、家族会のような支援の場や「先行く仲間」の存在が必要である。性加害がなぜ起こるのか、嗜癖行動としての側面も含めて正しい知識を得て、家族会のような場所で同じ立場の仲間と語り、つながることで加害者当人との適切な境界線を見出し、「私は私の人生を生きよう」と思えるようになるのだ。しかし、支援の現場だけでは限界がある。加害者家族が日常を取り戻し、個人の尊厳を回復するためには、私たちひとりひとりの意識が変わる必要がある。加害者の更生や社会復帰を支える加害者家族もまた「支援を必要とする存在」であることが、社会に広く伝わることを願っている。
●加害者家族が抱える困難を理解し、「加害者家族も支援を必要とする存在である」という認識が広まることが、加害者の治療や再犯防止、ひいては新たな被害者を生まないことにつながる。

新書版だが、非常に重い内容の一冊です。