理系出身作家の小説論・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3891)】
【読書の森 2025年11月17日号】
情熱的読書人間のないしょ話(3891)


『理系の読み方――ガチガチの理系出身作家が小説のことを本気で考えてみた』(大滝瓶太著、誠文堂新光社)の著者は、大学院で熱力学、統計力学を学んだ理系出身作家ということで、小説の読解と物理学の法則に共通点を見出しています。文系出身の私は、この辺りは敬して遠ざける作戦で読み進めました。
とは言いながら、出身領域には関係なく、いろいろとヒントを得ることができました。
●フランツ・カフカは小説の中に生じる奇妙な物事を問題化するのが異様にうまい作家だ。
●ミラン・クンデラが、小説には「ふたつの力」がある、小説の登場人物は身体の内的な力か、外的な力かのどちらかで行動を起こす、マルセル・プルーストは前者の力を駆使して非常に大きな業績を残したのに対し、カフカは後者、つまり身体の外から受ける力のただならなさを書いた――という素晴らしい論考を残している。
●ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』を、小説を読み通した経験があまりないまま、いきなり読み始めるのは、運動不足の人がいきなりフルマラソンを走るようなものだ。
●自分が知りたい情報だけを摂取して得られるのは円状に閉じた形の「知」である。「情報」を「知識」に変える「ノイズ」は、円状に閉じた知の形を壊し、読者を想定外の領域へと導いてくれる。読書とはそのようなものであってほしい。【「ノイズ」は、読者にとってアンコントローラブルな要素を意味しています】
