難病中の難病・ALSの治療法の研究・開発はどこまで進んでいるのか・・・【薬剤師のための読書論(21)】
『難病にいどむ遺伝子治療』(小長谷正明著、岩波科学ライブラリー)では、神経科医によって神経難病――筋ジストロフィー、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、球脊髄性筋萎縮症――が、一般人にも分かり易く解説されている。
難病中の難病とされる筋萎縮性側索硬化症(ALS)については、このように記されている。「運動ニューロンとは、筋肉を動かそうとする指令を伝えるシステムを形成する神経細胞のことだ。これらが少しずつ侵され、筋肉が麻痺していく病気を、運動ニューロン病という。大脳皮質の運動野にある神経細胞(錐体細胞)から伸びた神経線維は、脳幹部の延髄で左右に交差し、脊髄の側索という部分を下に向かい、脊髄前角細胞に指令を伝える。この部分を上位運動ニューロンという。前角細胞とそこから先の抹消神経が下位運動ニューロンで、最終的には筋肉に指令を伝達する」。
「手足の筋肉はもとより、舌や喉の筋肉、呼吸のための筋肉も障害されるので、嚥下(飲み込み)障害や呼吸障害も出現し、これらが命取りになる。また、頭脳はクリアなままで発声障害が起こるので、コミュニケーションの維持が問題となってくる。運動ニューロン病にはいくつかの病気があり、最も有名で、進行が早く、症状も重いのがALSだ。筋萎縮性側索硬化症という病名が示すように、下位運動ニューロンが侵されて筋肉が萎縮し、上位運動ニューロンの脊髄側索が侵される。遺伝性は少ない」。
「典型的なALSでは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが同時に侵される。中年以降に発症することが多く、手足の麻痺や嚥下障害とともに呼吸障害も現れ、発症後3、4年ほどで呼吸不全による生命の危機が訪れる。多くの場合、頭脳は明晰なままである。人工呼吸器が普及していない時代はなす術なく、呼吸器を装着したらしたで、回復する可能性のないエンドレスの療養を送らざるを得ない。いずれの状態でも患者や家族の苦痛は大きく、療養をサポートする医療や福祉の従事者の苦悩も続く」。
一番気になる治療法の研究・開発はどこまで進んでいるのだろうか。「東北大学の青木正志教授は、培養した前角細胞を活性化する肝細胞増殖因子(HGF)をこの(活性酸素を解毒するSOD1の変異遺伝子を組み込んだ)マウスに投与し、効果が得られたことから、ヒトのALS患者への臨床試験を行っている。予備試験を経て、2016年から本格的な治験が行われており、成果が待たれる」。
治療法のもう一つの期待の星がiPS細胞である。「先端医学で注目されているのは、iPS細胞である。損なわれた細胞を再生して、補っていく治療法が注目されているが、細胞障害のプロセスをシャーレの中で再現できることにも大きな意味がある。ブニナ小体の本態は? 異常なSOD1は前角細胞の機能にどういう影響を及ぼしているのか? TDP43が働かないと、なぜ前角細胞が死ぬのか? それとも異常なSOD1やTDP43に毒性があり、それらが蓄積すると細胞がゴミ屋敷のようになって損なわれるのか? そもそも(遺伝性でない)孤発性のALSはなぜグルタミン酸受容体の構成が異なっているのか? ALSを克服するためには、このようなことを明らかにしなければならない」。
最も悲惨な病であるALSの治療法の目覚ましい進歩を願うや切。