榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「MR不要論」は由々しきこと――転換期の今こそ、活動内容の見直しを

【Yakugyo Jiho 2011年11月25日号】 opinion

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メディカルライン取締役会長 兼 イーピーエス顧問 榎戸 誠氏

「MR不要論」は由々しきこと
――転換期の今こそ、活動内容の見直しを

銀座の裏通りの沖縄家庭料理店で、イーピーエスの厳 浩社長に偶然出会ったことが、私の運命を変えた。MRのやりがいや彼らへのサポート体制について、熱い議論が3時間ほど続いただろうか。翌日、厳社長から「イーピーエス・グループでCSOを立ち上げてもらえないか」とのオファーが。今から8年前のことだった。

新規事業をゼロから興すのは想像以上に大変だった。それまでは三共(当時)という大組織の管理職だったが、今度はイーピーメディカルという小さな会社とはいえ経営者。苦労を重ねたが、3年半で黒字転換に成功し、業界ランクも4位まで上昇した。

現在、私はコールセンター業務を中心とするイーピーエス・グループのメディカルラインの会長なので、CSO事業を俯瞰できる立場になった。

ちなみに三共時代の私は、いわゆるモーレツMR。ほかのMRとは異なるアイディアを編み出し、実行するのが楽しみだった。先生方との心の交流を大切にすれば、実績は後から付いてくることを学んだ。基幹病院Tで、当時、最主力品だった「セフメタゾン」と「ペントシリン」の合計で月間10000gの実績まで伸ばし、1986年に「日経ベンチャー」誌の「日本のトップセールスマン500人」に選出されたことを、懐かしく思い出す。

三共ではその後、「ザンタック」「ケルナック」「メバロチン」のプロダクト・マネジャーを経験したが、同社の歴史上、初の文科系プロマネだった。「メバロチン」を医療用医薬品売上高第1位に押し上げる一翼を担えたことは幸運だった。

評価高い異業種出身者

さてCSOビジネスだが、業界は今後大きく発展していくと予測している。コントラクトMR(CMR)の数は急激に伸びており、最終的には恐らく全MRの10%程度まで拡大するだろう。欧米の製薬企業は固定費を変動費に移し替えるため、アウトソーシングを戦略的に実施してきた。日本国内でも新薬が相次いで上市されるので、CMR活用に積極的である。内資企業も”お試し”的な段階から次の段階に移行してきている。これではCMRが増えない理由は考えにくいのではないか。

CMRの質は確実に上がってきている。人材は主に医薬品業界外から集まるが、住宅、自動車、保険など厳しい営業でもまれてきた若者たちは、ガッツがあるし、場の空気も読める。訪問規制や対応の難しいドクターにも、果敢にぶつかっていく。数字に対する執念も相当なもので、このことは多くの製薬企業幹部も認めている。

ただ、CSOにとっての課題は、優秀な人材が派遣先の製薬企業に転籍してしまうことだ。業界平均ではCMRの約半数は製薬企業へ移っていく。また、欧米では製薬企業が新人MRを採用せず、CSOが採用代行業務を担うケースも多い。製薬企業が新人を採用したとき、MRに不向きな者を抱えてしまうリスクを考慮すれば、契約終了時に評価の定まったCMRをCSOからもらい受けるというのは、理にかなっているからだ。

一方、CSOサイドから採用や研修に要する費用を勘案すると、優秀な人材の歩留まりをいかに高めるかが、企業の命運にかかわってくる。各社ともキャリアパス・システムを構築するなど、知恵を絞っている。私の場合は、面接時、応募者の将来の可能性や潜在能力を見抜くよう心がけ、優秀なMRが当社に長く定着してくれるよう、心の絆を強めてきた。

女性MRが増えてきているのはいいことだ。”倦(う)まず弛(たゆ)まず”は女性が得意とするところ。結婚後も辞めずにMRを続けたり、単身赴任もいとわないケースが増えている。仕事を通じて自分を表現したいという女性にとって、MRは天職と言えるだろう。

抜け道はない

「MRというのは、やりがいのある素晴らしい仕事」というのが、私の長いMR経験から得られた結論であり、確信である。ただ、どんなに優れたMRであろうと、常に順風満帆でいられるほど甘くはない。来年4月からは製薬企業と医療機関との関係が透明化され、公正競争規約が厳格運用される。こうした新時代を迎え、MRや製薬企業はどうあるべきかを真剣に考える必要が出てきた。

接待にかかわるプロモーションコード見直しや研究費の明示に対し、抜け道を探すようなMRや製薬企業は生き残れない。これまでにも添付廃止やMRの価格への関与禁止など大きなパラダイムの転換があったが、こういう大きな転換期には覚悟を決めて変化にきっちりと対応することが大事だ。

昨今、一部で「MR不要論」なるものがささやかれているようだ。また、訪問規制が強化され、やっとの思いで面談にこぎ着けても、インターネットの発達などを受けて、忙しい時間を割いてまでMRから情報提供される必要性を感じないドクターも存在するという。これは由々しきことである。

医療機関との関係の透明化が進む中では、これまで以上に、ドクターが会いたい、話を聴きたいと思うMRになることが生き残っていくベスト・ウェイだ。個々の行動レベルで言えば、従来のSOV(Share of Voice=処方を依頼する競争)からSOM(Share of Mind=心のつながりを深める競争)へ進化させるためには、患者志向に立脚したOPD(One Patient Detailing=ある疾患における、自社製品に限らない個々の症例に基づく有益な情報の提供)という視点が必要になるだろう。

OPDこそがドクターのニーズやウォンツに対応可能なディテーリングだ。具体的には、MR自身がドクターのための「症例集」になろう、ということである。

全MRの応援団に

今後、CMRの比率が高まるにしても、MR総数は減少していくだろう。6万人という数は、医師数が日本の2.5倍の米国のMR数8万人と比較された場合、批判の対象になりかねない。そのコストが保険財政から支払われ、平均給与も他業種より高いからだ。一番の対応策は、OPDの実践によって、MRがドクターをはじめとする医療従事者や患者に喜ばれ、社会から高く評価される存在になることだ。

私には自分が育てたMRだけでなく、全国6万人のMRすべてが後輩だという思いがある。現在、いくつかの業界紙誌で連載中だが、これもMRを励ましたいという気持ちの表れだ。MRの先輩の一人として、これからもずっとMRの応援団でありたいと思っている。
(聞き手・穴迫励二)

榎戸 誠(えのきど・まこと)氏
1945年、上海生まれ、東京育ち。67年、中央大学法学部卒業後、三共(現・第一三共)入社。MR、メバロチンのプロダクト・マネジャー、医薬営業企画部長等を経験。2003年、イーピーエス入り。イーピーメディカル社長、ファーマネットワーク社長を経て、メディカルライン会長兼イーピーエス顧問(経営戦略)。業界紙誌等に5つのコラムを連載中(ブログ「榎戸誠の情熱的読書のすすめ」参照)。