MR自身がドクターのための「症例集」になろう・・・【MRのための読書論(71)】
新時代のMR活動
製薬企業と医療機関との関係が透明化され、公正競争規約が厳格化される新時代を迎え、MR活動はどうあるべきか、製薬企業はどうあるべきかを真剣に考えようとするとき、見逃すことのできない一冊の書が出現した。『優秀なMRはどのようなディテーリングをしているのか?――シェア・オブ・マインドを上げるOPD実践テキスト』(高橋洋明著、川越満監修、セジデム・ストラテジックデータ株式会社ユート・ブレーン事業部)は、このテーマに真正面から取り組んだ刺激的な力作である。
MR活動を、従来のSOV(Share of Voice=処方を依頼する競争)からSOM(Share of Mind=心の繋がりを深める競争)へ進化させるためには、患者志向に立脚した「OPD(One Patient Detailing=ある疾患における、自社製品に限らない個々の症例に基づく有益な情報の提供)」というコンセプトが必要になる、と監修者が冒頭で述べている。
なぜOPDなのか
昨今、一部で「MR不要論」なるものが囁かれているという。MR経験20年、MR育成24年の私としては看過できない事態であるが、現役MRにとっては、もっと切実な問題だろう。また、訪問規制が強化され、やっとの思いで面談に漕ぎ着けても、ネットの発達などを受けて、忙しい時間を割いてまでMRから情報提供される必要性を感じないドクターも存在するという。はっきり言って、これは由々しきことである。
ドクターが会いたいと思うMR、話を聴きたいと思うMRになることが、これからの医療業界でMRが生き残っていくベスト・ウェイであり、延いては、ドクターを初めとする医療従事者、患者に喜ばれ、社会からMRが高く評価されることに繋がる、というのが著者の主張である。
それでは、ドクターが求める、ドクターにとって本当に有益な情報とは何か。この解答を得ようとするならば、ドクター、さらには患者の立場で疾患や治療を捉え、想像し、考える力が必要になるというのだ。OPDこそが、ドクターのニーズ、そしてウォンツに対応可能なディテーリングだというのだ。
著者はOPDを推奨する理由を10挙げている。①OPDはドクターのニーズに合ったディテーリング方法である――OPDは「症例集」をMRの頭の中に作り、ドクターからの質問にスムーズかつ的確に回答できるディテールング方法と言えるからだ、②OPDはドクターの満足度を高めるディテーリングである、③OPDは疾患領域や治療薬が何かに拘わらず有効なディテーリングである、④OPDはMRにもメリットがたくさんある、⑤OPDの実践によってドクターからの評価が高まる――OPDを続けていると、ドクターの話が理解できるだけでなく、診療におけるドクターの考え方も理解できるようになるからである、⑥今、OPDを求めているドクターが増えている、⑦OPDで口コミ現象を起こすことができる、⑧OPDで得られた情報を蓄積すると、エリア・マーケティングができる、⑨OPDはMRのモチヴェーションを上げてくれる――MRとは、本来、社会や医療に貢献できる、やりがいのある仕事なのだ。ドクターや医療従事者の便利屋ではない。MRのやりがいや醍醐味は、「MRが提案した薬剤が、患者や家族、ドクターに笑顔と幸せを提供すること」にあるのだ、⑩OPDの情報の蓄積はMRや製薬企業にとって財産である。
このように、OPDは、ドクターにもMRにも有効なディテーリングであり、MRによるOPDは、ドクターとの症例情報の共有化だけでなく、「薬剤処方時の信頼、安心感の提供」でもある、と著者はOPDの実践を強く勧めている。
臨場感溢れる実践例
100ページ近くが、具体的なOPDの実践例の紹介に充てられているのが、この本の最大の強みと言えるだろう。「新薬上市時」「ピカ新から遅れて上市した薬剤」「生活習慣病治療薬」「がん」「精神疾患」「希少疾患」「病院勤務医」「開業医」「専門医」「薬局長」のそれぞれのケースについて、「従来のディテーリング」と「OPD」を対比する形で示されている。現役MR時代にOPDを実践してきた著者の蓄積が、これらの対話に臨場感と説得力を与えている。
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